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「世界の工場」は西へ
産業部編集委員 後藤康浩

2010/8/31 7:00
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 「到西部去(西部へ進め!)」。中国で製造業が内陸に向け、工場を移転させ始めた。この1、2年、沿海部で深刻化している工場の若手労働者不足と2010年春に始まった賃上げ要求の嵐が背景にある。2000年ころ、「西部大開発」の号令を政府がかけてもなかなか動かなかった企業が今、西に向け本格的に動き始めた。

外資系ホテルなど高層ビルが林立する重慶だが、人件費は沿海より3割以上安い(写真は重慶マリオット)

 内陸部で今、工場進出で目立っているのは重慶市や西安(陝西省)、成都(四川省)などかつての「3線都市」だ。3線都市とは1960年代に中国と米国との間で軍事的緊張が高まるなか、産業の一部を安全保障のため内陸に移転させる工場疎開で建設された産業ベルト。中国をほぼ南北方向に走り、「1線」が沿海部、「2線」が沿海からやや奥まった浅めの内陸、「3線」は本格的な内陸地域だ。重慶の自動車、二輪車など輸送機器、鉄鋼、西安の電子機器など軍需向けの産業が3線に配置された。

 「3線都市」は内陸とはいえ重慶など高層ビルが林立する近代都市も多い。だが、人件費は沿海より3割以上は安く、労働者確保は沿海よりも容易だ。給与が安いといっても住宅や食糧などの生活費も安いため、手元に残る所得は沿海部の出稼ぎより多いケースが少なくない。当然のことだが、「3線都市」には建設された当時、エンジニアや工場労働者が大量に移住、その後を継ぎ、今も多数のモノづくり人材がいる。そのうえ、2000年あたりから政府が積極的に大学卒業生の内陸就職を支援したため、若手人材も育っており、隠れたモノづくり人材の宝庫だ。

 08年11月に公表された中国の4兆元(約53兆円)の景気刺激策の軸足は発展の遅れていた内陸に置かれたため、内陸部ではこの1、2年インフラ建設が急増しており、素材需要なども急膨張している。「内陸でつくり、内陸で売る」時代がやってきたことも工場の内陸移転を促している。

 もうひとつ見逃せないのは、鉄道、高速道路などの交通インフラの整備で、内陸と沿海部との時間距離が縮まったことだ。昨年12月に開通した広東省広州と湖北省武漢の間の1069キロを3時間で結ぶ高速鉄道はその典型だ。内陸といってもかつてほど遠い場所ではなくなった。政策でも重慶市では、農地の工業用地、住宅地への転用を沿海都市部の土地と同じ補償水準で進める「重慶方式」が試験的に採用されるなど実は大胆な改革が実施されている。内陸移転はもはや、低賃金を求めたり、政府の優遇策目当ての進出ではなくなった。日本企業の内陸移転は安徽省、河南省など「2線都市」中心に動いているが、「3線都市」への進出ブームが起きるにもそう遠い将来ではないだろう。

 だが、中国の内陸地域より人件費コストの安い国はカンボジア、ミャンマー、バングラデシュ、インド東部など北緯23度線に沿って、産業ベルトのように並んでおり、縫製業など労働集約型産業を急激な勢いで世界から吸引している。すでに中国に進出しているから、移転先を中国内で探すというスタンスでは3年間はよくても、5年先、10年先には中国内陸工場が高コストで競争できないという恐れもある。「中国内陸3線都市」対「北緯23度線産業ベルト」という競合をしっかりとらえ、どんな拠点が中国内陸に向き、何が23度線に向いているかをしっかり見極める必要があるだろう。

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中国、製造業、内陸部、高速道路

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