■「遺伝子検査ビジネス」、医療機関と連携
2003年にヒトのゲノム(全遺伝子情報)を解読する「ヒトゲノム解析」が完了してから9年が経過。分析にかかるコスト自体も下がりつつあり、医療現場だけでなく個人向けの遺伝子情報の検査サービスも受けやすくなってきた。
「肥満や疾患は生活習慣によるところも大きいが、(遺伝子情報を知っておくことは)将来のリスクを減らすという点で有効だ」。こう話すのは、大阪大学先端科学イノベーションセンター教授で、遺伝子検査ベンチャーのサインポスト(大阪市)の代表でもある山崎義光医学博士。同社は糖尿病や胃がんなど62項目の疾患リスクを2万7千円で検査できるサービスを提供している。2008年からは医療機関との協力関係も構築し、現在全国で200弱の医療機関と提携した。遺伝子検査をもとに、医者から食事を含めた栄養指導などが受けられるサービスを展開している。
「大切な人に元気でいてもらうために、遺伝子検査のプレゼントはいかが」――。バイオベンチャーのバイオインフォビジョン(東京・港、安河内正文社長)は、病気のかかりやすさを判定する遺伝子検査キットを家族などに送ることができるサービスを6月に始めた。専用サイトでギフト券を購入し検査対象となる受取人の情報を入力すると、プレゼントの受取人にメールが届き、遺伝子検査キットが郵送される。
口内の粘膜を専用キットでこすりとり、郵送で送り返すと約6週間後に日本語で検査結果が届く。アルツハイマーやがんなどの特定の病気や体質について、個人が遺伝的に持つ「病気のかかりやすさ」を数値化して示してくれる。「将来かかりやすい病気の可能性を知ることで、予防につなげられる」(安河内社長)。
「フルスキャンコース」はがんや心臓、消化器系など1万個以上のSNP(遺伝子の中にある一塩基多型とよばれる個人の体質を決めるもの)を分析し、最大50項目の疾患リスクや髪の毛の抜けやすさなどの体質を知ることができる。同検査で判定される数値のひとつが、個人の「発症リスク」の数値。例えば、心房細動という不整脈疾患の判定結果は「0.8」といった具合。1を基準とし、数値が高いと疾患リスクが高いことがわかる。料金は11万5500円と割高なのは、「疾患リスクは複数のSNPを分析して算出し、精度を高めている」という。
同社が提供するサービスは、アイスランドに本部を置くデコード・ジェネティックス社の技術を活用している。1999年、アイスランド政府の支援を受け、同国全体の家系図データベースの構築を手がけた実績を持つ。安河内氏は、「様々な遺伝子分析サービスが登場しているが、(ディコード社は)200万人以上のDNA解析の実績があり、日本人を含むアジア系の遺伝子収集も進んでいる」と品質の高さに自信を持つ。
ただし重要なのは、検査結果を見て一喜一憂することではなく、可能性のある疾患を予防するためにどう行動すべきかだろう。このためバイオインフォビジョンは、疾患の知識や予防のためカウンセリングができる医療機関との連携を進めている。富裕層向けに人間ドックや診療を手掛けるSBIメディカルスパ倶楽部(東京・千代田)もそのひとつだ。
将来は全国の主要都市の医療機関とも提携を広げるほか、大手旅行会社と組んで中国人旅行客の取り込みも目指す。バイオインフォビジョンの検査を受けた都内在住の大学生(23)は、「脳卒中の原因となる脳動脈瘤(りゅう)が平均値より高かった。カウンセリングを受けたら魚などを積極的に取るようアドバイスをされた。検査を受けてから食べ物に特に気をつけるようになった」と話す。
「スマートフォン(高機能携帯電話)に自分のDNA情報を入れて常に持ち歩き、診断の時に医者に見せるのが当たり前になるかもしれない」。こう話すのはオーダーメード医療の普及を進める埼玉医科大学・ゲノム医学研究センター所長の岡崎康司教授。「遺伝子分野の研究は日々、進歩している。自分のデータを持ち歩くことで、医療現場に全く新しい世界が広がる」と普及を期待する。
(電子報道部 杉原梓)
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