米アップルの多機能情報端末「iPad(アイパッド)」が発売されて約1カ月。米国では電子書籍端末の本命と目され、書籍の電子化の流れが一段と加速している。だが、雑誌となると事情は異なる。米国の雑誌出版社ですらさまざまなジレンマを抱え、迷いがある。電子書籍で遅れをとる国内勢はなおさらだ。
米国で4月にiPadが発売されるや否や話題となり、人気アプリケーションの上位に食い込んだのが米タイムの看板雑誌「TIME (タイム)4月12日号」だった。
アプリを起動し、ページを指でめくると、いきなり冒頭で「読者の皆さんへ」と見出しが付いた記事が飛び込んでくる。「iPadは我々の読者へ最高のジャーナリズムを提供するだろう。(中略)これは始まりであって終わりではない。読者の声とともに毎週、改良を重ねていく。だから、何を思うのか電子メールで教えてほしい」
数十人体制でiPad版に臨む
iPad発売の特集記事を組んだ4月12日号の表紙は、アップルのスティーブ・ジョブズCEO(最高経営責任者)。タイムは雑誌1冊分のコンテンツとデザインを流用しながら、iPad版専用の記事や写真、動画などを追加して1本4.99ドルのアプリに仕立てた。
1923年創業のタイムは「Sports Illustrated」「FORTUNE」など著名な雑誌ブランドも傘下に抱える。その老舗雑誌社が見せたiPadへの傾倒ぶりを米メディアは電子雑誌時代の象徴として取り上げ、新しいモノ好きのギークたちはこぞってダウンロードした。ジョブズCEOの表紙は、新時代の幕開けを予感させるのに十分な演出だった。
実はタイムは当初、iPad専用コンテンツへの投資に懐疑的だったという。その姿勢が変化したのは、ジョブスCEOが自らタイムを訪問してiPadのプレゼンテーションを行ってから。週刊誌であるタイムを毎週iPad向けに編集し直して提供するのは並大抵でないが、新たなデバイスのために全社一丸の体制を敷いた。
iPadが正式発表された直後、2010年2月に発足したプロジェクトチームには、編集記者をはじめ、デザイナー、オンライン版のスタッフなどが参加。傘下のSports Illustratedからも応援を得て、チームは数十人に膨れた。外部のデザイン会社とシステム会社に支払った投資額は数千万円にのぼると見られる。
「5ドルはバカげている」
タイムが目指したのは、単なる紙の焼き直しではない新時代の雑誌。タッチ操作や傾けることで見え方が大きく変わるなど、iPadの操作性やインタラクティブ性を十分に生かした。紙の雑誌には未掲載の写真を多数追加し、報道写真集として楽しめる機能も付けた。動画もある。だから、iPad報道で過熱していたメディアにも受けはよかった。
広告主の反応もいいようだ。iPad版にはさっそく、ユニリーバやトヨタ自動車といった大手広告主がついた。4月12日号から8号分の特定の広告枠が20万ドルで売れた、という景気のいい話を米ニューヨーク・タイムズ紙は紹介した。
だが多くの一般読者の反応は違った。不評だったのは、内容ではなく価格だ。
「多少のプレミアムなら払うけれど、1冊50セントで家まで届けてくれるものに5ドルはバカげている」「これが雑誌業界を守る道だと考えているのなら、クレイジーだ」……。
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