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『胸を張れITモグラ』 第5話 分散入力革命
釜田雅彦

(1/3ページ)
2010/9/3 7:00
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 武蔵電気の岩本大樹がビキューの清水大三郎と初めて会ったのは、ちょうど山根勇二が「押し込みは間違っている」という手紙と写真を大三郎に送った1984年(昭和59年)5月上旬のことである。

 岩本は、当時、39歳、化学メーカー担当の営業課長としてバリバリやっていたころである。

 一方、大三郎はすでに63歳、ビキューの創業社長として社長在任38年、化粧品業界のドンと呼ばれ出していた。

 当時、武蔵はビキューとの間に何の取引もなく、トップの大三郎との間にも何のコネもなかった。そこで岩本の上司で営業部長だった田代が、銀行を仲介者として大三郎にトップ営業を仕掛けよう、と言い出したのである。

 

 武蔵は帝都財閥系の電気会社であり、メイン銀行は帝都銀行であった。

 この帝都銀行のコネを使って、同じく帝都銀行をメイン銀行とする企業にトップ営業を仕掛けることは、武蔵では古くから行われていた営業手段の一つであった。

 ビキューのメイン銀行も帝都銀行である。

 

 田代は古くから行われているこの営業手段を使って、帝都銀行の紹介でトップ営業を仕掛けようというのである。

 営業部長の田代がそこまでやろうというのは、武蔵がビキューに対して大きな営業案件を抱えていたからである。

 

 ビキューはコンピューターではGBM社のビッグユーザーであった。GBM社はこのころ、世界一のコンピューターメーカーであり、日本でもメインフレーム(現代でいえば「サーバー」)分野でトップシェアを持っていた。

<第1章の主な登場人物>
山根勇二 化粧品会社大手ビキューのCIO(情報システム責任者)。48歳の最年少執行役員
清水大三郎 ビキューの創業者で代表取締役会長。87歳
清水健太郎 ビキュー社長。清水大三郎の一人息子
山根美紀 山根勇二の妻。コンピューターメーカー大手、武蔵電気の美人キャリアウーマン
山根杏子 山根勇二と美紀の娘。15歳
郷田耕造 ビキュー相談役。情報システム担当役員だったこともある。74歳
只野誠 ビキュー入社3年目から一貫して情報システム部に在籍。無口だが優秀な「システム職人」
岩本大樹 武蔵電気の専務。山根勇二とは20年来の付き合い
瀧本俊二 武蔵電気の部長。ある“事件”をきっかけに、山根勇二に頭が上がらない
岩本峰子 岩本大樹の母親
真樹時子 マキ化粧品店の経営者。元・銀座のママ

 ビキューの日本橋本社には、GBM社の大型メインフレームが導入されており、経理や人事やマーケティングなどの基幹業務をサポートしていた。

 また64の各販売会社には、GBM社の「システム25」というオフコン(オフィス・コンピューター)が導入され、販社ごとの経理や人事、販売などの基幹業務をサポートしていた。

 

 さらに、ビキューの三つの工場には朝日の小型メインフレームが導入され、生産管理業務をサポートしていた。

 朝日は国内メインフレーム市場ではシェア2位。武蔵はGBM社と朝日に次いで3位というポジションだった。

 ビキューは国内メインフレーム市場の1位と2位からコンピューターを購買し、3位の武蔵とは取引がなかったのである。

 しかし、武蔵はインテリジェント端末という分野で独自のユニークな製品を持っていた。

 「M6300」という製品である。

 武蔵はこの製品で、2社購買の牙城を崩し、ビキューに食い込もうとしていたのだ。

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