2010年4月、140文字の“つぶやきメディア”「Twitter(ツイッター)」の登録利用者は、世界で1億人を超えた。火が付くのが遅かった日本でも、気がつけば政財界の大物から学生、サラリーマン、主婦、そして企業まで、あらゆる層のコミュニケーションツールとして浸透し、企業活動を営む上で欠くことのできないインフラに育ちつつある。企業はこの新たなインフラとどう向き合えばよいのか。全7回にわたる連載の初回は、過熱する日本の「ツイッター現象」と、ビジネスへの影響力を探る。
ソフトバンクの孫正義社長と、通信行政をつかさどる原口一博総務相。2人のトップが繰り広げるやり取りに客が沸いている(写真1)。舞台は「Twitter(ツイッター)」。観客は数十万人以上だ。
「国際標準並みに電波の再編成をしたい」。原口大臣の会見での発言を受け、孫社長が「流れを変える最終機会」と大臣に向けてつぶやいたのは2010年4月18日未明。翌朝、大臣は「ありがとうございます。日本の潜在力を引き出す好機です」と返すと、観衆は「電波開放」の流れが決まったと沸き立った。
通信会社トップが総務大臣に公の場で意見
総務省が、携帯電話のSIMロックを解除し、同じ端末を別の通信会社でも使えるようにする方針を示した4月2日深夜には、孫社長は立て続けにこうつぶやき、総務省に噛みついた(写真2)。「ロック解除は、端末代が4万円値上げになる。強制すると、またしても総務省が原因で端末が売れなくなる」「総務省による販売モデル強制は、問題有り」――。
起床してから孫社長のつぶやきをチェックした原口大臣は、あわててこうつぶやく。「孫さん、おはようございます。(中略)一部、情報が走っている部分もありますね。総務省がビジネス・モデルを強制することは、ありません」
当日の各紙朝刊には、SIMロック解除が義務化へ向かうかのような論調の記事が並ぶ。それを打ち消すかのような大臣直々のつぶやき。孫社長は「総務省からの強制でなければ、我々もSIMロック解除をいくつかの機種で試して見る事は可能です」「国産メーカーも何機種かSIMフリーを試して見る事は可能です」と歩み寄り、矛を収めた。
かつてなら、総務省にひれ伏していた通信会社のトップが、直接大臣に、時には歯に衣(きぬ)着せぬ物言いで意見をする。それに大臣が呼応しているさまを、誰もがリアルタイムで追うことができる。是非は別として、これこそがツイッターのダイナミズムであり、醍醐味(だいごみ)の一つ。だからツイッターに引き込まれる観衆が、引きも切らない。
ツイッターを通じた「劇場型陳情」に「劇場型政治」
孫社長のアカウントをフォロー(登録)し、つぶやきを追っている「フォロワー」の数は、2010年4月末時点で24万人以上、原口大臣のフォロワーは9万人以上いる。2人のやり取りは、少なくとも数十万人の画面へと即座に伝わり、そこからまた、「RT(リツイート)」という他人のつぶやきを回覧する行為によって拡散する。時には、一般のフォロワーが2人の主役のつぶやきに、脇役として絡むこともある。
むろん、孫社長と原口大臣の2人は、多くの観客が画面の向こうにいることを知っている。発言の影響力と波及力があるからこそ、つぶやく。テレビではなく、ツイッターを通じた「劇場型陳情」に、「劇場型政治」がなされる時代――。
もはや、ツイッターは「キャズム(普及手前の深い溝)」を超えたという程度のレベルではない。
Twitter、ツイッター現象、リツイート、つぶやき、携帯電話、フォロワー、コミュニケーションツール、SIMロック
2012年2月9日付 (2/8)
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