
【前回までの胸を張れITモグラ】 1980年代後半、次期社長候補の清水健太郎をうならせる戦略的な販売支援システム「ビキューPOS」を発案した営業の山根勇二は、事業企画に抜擢された。持ち前の分析力・行動力を発揮し、“敏腕営業”岩本大樹が率いる武蔵電気の面々や、ビキュー情報システム部門の只野誠らと共に、その開発プロジェクトを成功に導いた。里山美紀との恋愛も成就させ、山根の未来は輝いて見えた。
その日、武蔵電気の岩本は宴席があって夜中の0時過ぎくらいに帰宅した。
妻の礼子は、岩本の帰宅が0時を過ぎると先に休むことになっていたのだが、その日は、起きて待っていた。
礼子だけではない。母の峰子まで一緒に起きて岩本の帰りを待っていた。
礼子と峰子は岩本に大三郎の手紙を渡すために起きて待っていたのである。
大三郎はこの亡くなる年の6月まで、自分の戦友であり、岩本の父であり、そして峰子の夫である岩本弘樹を偲ぶ会に、24年間、毎年欠かさず出席していた。
だから、大三郎は岩本家では家族同然の扱いになっていたのである。
岩本は礼子と峰子と一緒にリビングのソファに座り、大三郎からの手紙の封筒を開け、『岩本君へ。清水大三郎』と達筆な字で書かれた茶封筒の中から、薄い便箋を取り出した。
『 岩本君へ
君の父上のところへ逝きます。
君の母上と再会し、年に一度、母上のお部屋にお邪魔をし、父上の偲ぶ会を一緒にさせてもらったことは、真に、わたしの人生の中で最大の喜びでした。
初めて君の家にお邪魔した時に、わたしは母上の質素な鏡台の上にビキューの化粧品が置かれていることに気付きました。
<第5章(最終章)の主な登場人物>
山根勇二 化粧品会社ビキューの社員。1980年代後半に営業(販売会社)から化粧品事業部企画部に異動、戦略システムである「ビキューPOS」の企画・開発に貢献
山根美紀(旧姓・里山) コンピューター大手、武蔵電気の子会社である武蔵ソフトの美人システムエンジニア。ビキューPOSプロジェクトで山根と出会い、後に結ばれた
岩本大樹 武蔵電気の“伝説”の敏腕営業。ビキューPOS開発時点では営業課長。大三郎と個人的なつながりもある
瀧本俊二 ビキューPOS開発当時、岩本の直属の部下で、山根に頭が上がらない
清水大三郎 ビキュー創業者であり、「化粧品業界のドン」とも呼ばれる
清水健太郎 大三郎の一人息子。ビキュー取締役化粧品事業部企画部長として、若き日の山根を企画部に抜擢
只野誠 ビキューの無口だが優秀な「システム職人」。山根より7歳年上
河合江利子 ビキュー販社でパンチャーとして活躍。退職して留学、健太郎と結婚
真樹時子 山根が20代のときに担当していたマキ化粧品店の「美人ママ」
「ミコ」というブランドの化粧品です。
君の奥様にそっと聞けば、母上はこのミコの化粧品を若いころからずっと使い続けておられたとのことでした。
わたしは感動いたしました。
なぜなら、ミコというブランドはわたしがビキュー創業当初、社運をかけて、初めて開発したブランドだからです。
わたしはこのブランドだけは名前もデザインも当時のままで一切何も変えずに今日まで続けてきました。
それには理由があります。
君の父上は鹿屋の基地に面会に来られた母上を峰子と呼ばず、なぜかミネコのネを取って、ミコと呼んでおられたのです。
それがお二人の習慣のようでした。
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