
【前回までの胸を張れITモグラ】 2008年11月、ビキュー創業者であり、「化粧品業界のドン」として知られる清水大三郎が死去した。知らせを聞いた、武蔵電気専務の岩本大樹は、こみ上げる思いを抑えきれず、重要な会議を打ち切る。二人の出会いは昭和後期の1984年。コンピューター業界が最も熱く、急成長を遂げた時代である。山根勇二がビキューに入社し、営業の最前線で活躍し始めたのもこのころだった。
山根勇二が初めてコンピューターというものに興味を持ったのは入社3年目(1984年)の夏のことだった。
山根はこの年の4月、ビキュー社長の大三郎に「押し込みは間違っている」という内容の手紙と写真を送ったが、何の音沙汰もおとがめもなく、仕事へのモチベーションが下がりかけていたころであった。
当時、ビキューは全国に64の販売会社を持ち、その販売会社は全国で約1万6000店のパートナーストアーと販売契約を結んでいた。
全国64のビキュー販社は、日々、そのパートナーストアーから化粧品の注文を受けていた。
そのほとんどが電話による注文である。各販社の商品課には電話受注専門のオペレーターが数人ずつ在籍していてこの電話注文を受け付けていた。
商品課のオペレーターたちは自分がパートナーストアーから電話受注した内容をメモに取り、「EDP(電子データ処理)受注入力伝票」に転記する。
EDP受注入力伝票はコンピューター室にまとめて持ちこまれパンチャーたちによってパンチされ、データ化された伝票はフロッピーディスクに保存され、GBM製のオフコン(オフィス・コンピューター)に入力されるのである。
このように、電話注文を受けるオペレーターたちはいったん注文の内容をメモにとる。
メモにとる内容は、注文を受けた「日時」、パートナーストアーの「店名」、注文された「商品」の名称、「数量」、「納期」、「受注担当者名」などである。
そして電話受注後にこのメモの内容を「コード」に置き換えてEDP受注入力伝票に転記するのである。
これらのうち注文を受けた「日時」や「数量」などは最初から数字なのでそのままコードとして扱うが、パートナーストアーの「店名」は「店舗番号」へ、注文された「商品」は「商品番号」へ、「受注担当者名」は「担当者番号」にコード変換して記入するのである。慣れないうちは「コードブック」を見ながら記入していく。
「EDP入力伝票」に転記される伝票は受注伝票だけではない。
販売管理業務では「納品伝票」や「入金伝票」など多数、給与計算業務でも「勤怠伝票」「異動伝票」など多数。経理業務では「支払伝票」「振替伝票」など、これもまた多数であった。
<第2章の主な登場人物>
山根勇二 化粧品会社大手ビキューで営業を担当。入社3年目の25歳
河合江利子 山根が所属するビキュー販売会社の美人パンチャー。山根よりも四つ年上の29歳
真樹時子 マキ化粧品店の経営者。元・銀座のママ
真樹社長 マキ化粧品店のオーナーで、時子の夫
清水大三郎 ビキューの創業者で社長。63歳
清水健太郎 大三郎の一人息子。ビキュー中央研究所に所属する32歳
このような手間を経てコード記入された各種のEDP入力伝票をコンピューターが読めるようにデータ化する仕事。それがパンチャーたちの仕事であった。
山根は販社のパンチ室でパンチャーたちがものすごいスピードでキーボードをたたいている姿を初めて見た時、いったい彼女たちが何をしているのかまったく見当がつかなかった。
まったく見当はつかなかったが、その姿が山根には何か知的で美しいものに見えたのである。
山根は小学校3年生の時に若くて美しい女性担任教師に初恋をした。その時以来、知的で美しいものに対して特別な憧れを持っていたのだった。
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