米グーグルはオープンなインターネットを放棄するのか──。8月初め、「グーグルと米ベライゾン・コミュニケーションズが、ブロードバンドのオープン化を目指すネットワーク中立性議論で合意に達した」というニュースが米国の放送・通信業界を駆け巡った。この報道は、両社から正式な発表がないまま、ネットワーク中立性を推進するグループの反発を呼ぶ一方で、米大手紙までが観測記事を掲載し、業界を超えた騒動となった。8月5日には、米連邦通信委員会(FCC)のジュリアス・ゲナコウスキー委員長による「認めがたい(unacceptable)」という発言まで飛び出し、米国の放送・通信業界は揺れ動いている。
憶測飛び交う合意の中身
ベライゾン・コミュニケーションズは米国第2位の総合通信会社であると同時に光ファイバー通信の最大手として、米通信業界の利益を代表する。そのベライゾンと、ネットワーク中立性推進派のリーダーともいうべきグーグルが「インターネットトラフィックについて個別合意に達した」との報道を、どこが最初に流したかは明確でない。筆者が調べた限りでは、どうやら大手通信社ブルームバーグが8月3日(米国時間)に配信したFCCの「密室会議」に関する記事が発端のようだ。
第一報がどこから出たにせよ、その翌日(4日)にはインターネットトラフィックに関して両社が合意間近というニュースが専門誌だけでなくウォール・ストリート・ジャーナルなどをにぎわせた。その内容は「グーグルがベライゾンの優先(プライオリティー)配信サービスを採用する」「コンテンツ・デリバリー・ネットワークやVoIP、携帯データ通信など微妙な部分で意見調整をしただけ」「次世代携帯データ通信サービスのオープン化で合意した」といったものだが、どの記事も観測の域を出ていない。本リポートを執筆している現在も、両社からは正式な発表はなされていない。
とはいえ、大手同士の「個別合意」報道は、ネットワーク中立性推進派を大きく刺激した。8月5日にはNew American Foundation、Public Knowledge、Free Pressといった市民ロビー団体が、次々に「もし本当なら両社は消費者保護を忘れ去ったに違いない」「個別交渉ではなく正式な立法過程を踏むべきだ」といった批判的な声明を発表している。ニューヨーク・タイムズの取材に応じたFCCのゲナコウスキー委員長も「インターネットの自由とオープン性を阻害するいかなる合意も認めるわけにはいかない」と厳しい調子で両社の動きをけん制した。
しかし、なぜ両社の交渉のニュースが大騒ぎを引き起こしたのだろうか。その引き金となったのは、FCCが約6週間にわたって行ってきた非公開のミーティングであるようだ。
進まないブロードバンド規制
そもそもFCCのゲナコウスキー委員長はネットワーク中立性推進論者で、ブロードバンド規制の強化に意欲を示してきた。2010年3月に連邦議会に提出された「全米ブロードバンド計画」では、ブロードバンドを放送・通信行政の柱に据え、ユニバーサルサービス基金の改革など既存ルールの見直しを提案している。しかし、委員長の意向に反して、ブロードバンド規制強化は順調に進んでいない。
FCCは7月15日、ブロードバンド規制に関する意見募集を開始した。ブロードバンドサービス事業者を「米国通信法における規制の対象にする」という重要な変更を国民に問うためだ。この変更がそのまま適用されると、インターネット接続サービスは電話と同じレベルの厳しい規制の対象となる。
この意見募集の背景には、10年4月7日にFCCがコムキャスト裁判(注1)で敗訴し、ブロードバンド規制にかかわる法的根拠が不明になったことがある。今回の意見募集は、法解釈を変更してブロードバンド規制を合法化するための第一歩となる。
注1 この裁判は08年8月1日、「ネットワーク中立性ガイドライン」に抵触するとして、FCCがP2Pトラフィック規制を行った米CATV最大手のコムキャストに業務改善命令を示したことが発端となっている。この命令はネット中立性推進派の勝利として当時大きく報道されたが、09年7月27日、コムキャストはコロンビア特別地区連邦巡回控訴裁判所に「準拠すべき法律や規制がないままにFCCが命令を下し越権行為を行った」と訴えた。そして同裁判所はコムキャストの訴えを認め、FCCは10年4月7日に敗訴した。裁判で負けたことにより、FCCはブロードバンド規制の法的根拠を持たない状況に立たされた。
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