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放送・通信の枠を破る米ブロードバンド計画
ITジャーナリスト 小池 良次

2010/3/23 0:20
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 米国時間3月16日、米連邦通信委員会(FCC)は「全米ブロードバンド計画」(National Broadband Plan=NBP)を発表した。2009年2月に成立した景気対策法はブロードバンドによる経済振興を条項の1つに盛り込んでおり、NBPはその具体策となる。370ページにおよぶ同計画は、固定や無線ブロードバンドの整備計画にとどまらず、米国の放送・通信行政全般をブロードバンドを前提に見直す内容となっている。

無線ブロードバンド振興へ電波調達策を検討

 NBPには、(1)1億世帯に向けて下り100Mbps、上り50Mbpsのブロードバンド環境を整備する、(2)高速無線ネットワーク・サービスで世界をリードする地位を獲得する、(3)学校や病院、公共機関に1Gbpsの回線を確保する、(4)全米で共有できる互換性のある公安ネットワークを構築する、(5)ブロードバンドによるスマート・グリッド(次世代電力網)の整備を促進する――といった華々しい目標が並んでいる。

FCC議長のジュリアス・ゲナコウスキー氏(AP Photo)
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FCC議長のジュリアス・ゲナコウスキー氏(AP Photo)

 特に「高速無線ネットワークの整備」は注目されている。米国では、民間事業者による広域WiMAX網の整備が進んでいるほか、携帯電話最大手のベライゾン・ワイヤレスが次世代携帯規格「LTE」(下り平均速度5M~12Mbps)のサービスを今年末までに約30都市で開始する。旺盛な投資意欲を見せるこれらの携帯電話事業者や無線インターネット事業者が計画を実現するには、大量の無線帯域が必要となる。そのため政府に「より多くの無線事業免許を交付するように」要望を寄せていた。

 NBPは、向こう5年以内に300MHz、10年以内に500MHzの無線帯域を供給することを提案している。ただし現在、FCCの手元にある交付可能な無線帯域は約50MHzにすぎない。10年で450MHz分の電波を調達するために、様々な政策手段を検討する必要があると述べている。

 追加周波数の調達先としては、地上デジタル放送に利用している無線帯域が候補に挙がっている。米国では09年6月にアナログ放送停波を終え、地上波放送局はHD(高精細)放送の拡充やモバイル放送の実験に取り組んでいる。地上波放送業界は周波数の返却に反発しているが、FCCは返却した放送局に無線免許費用の一部を補償金として提供する案や、無線免許の用途変更を柔軟にして周波数をサブリースできるようにする案などを検討している。

加入者系電話の清算計画にも言及

 こうしたブロードバンド振興策とともに、NBPは多くの放送・通信政策の見直しにも踏み込んでいる。なかでも、ユニバーサル・サービス基金(USF)制度の改革は興味深い。この制度は電話利用者から一定の割合で基金を集め、へき地や過疎地、低所得者への電話サービスに充当させるものである。最近は固定電話だけでなく携帯電話のサービス拡充にまで拡大されたため、基金の予算が急増して大きな批判を受けている。さらに「電話ではなく、ブロードバンドの普及に基金の目的を拡大すべきではないか」との意見も唱えられてきた。

 NBPは、USFに代わってCAF(Connect America Fund)と呼ぶ基金を設立し、音声とデータ通信サービスをひとまとめにしたブロードバンド整備の支援に充てようとしている。具体的には下り最低4Mbpsの回線網整備を目指し、既存のUSFに代わって向こう10年で155億ドルをCAFから支出させる計画を打ち出した。

 このCAF構想に関連して、NBPはアナログの加入者系電話網のサービス終了までを議論の俎上(そじょう)に載せている。携帯電話やインターネット電話(VoIP)の普及に伴い、アナログ電話の契約者は減少し、収入も減っている。そのため回線コストは、03年から09年で約20%増加している。

 FCCはNBPを通じて、アナログ電話からインターネット電話への移行を積極的に進めるよう提案している。つまり、USFに代わってCAFがインターネット電話とブロードバンドを普及させ、アナログ電話網を清算に持ち込むシナリオを描いているわけだ。

CATVや衛星放送にSTB開放迫る

 改革の手はケーブルテレビ(CATV)や衛星放送業界にも及んでいる。これまで電話網にはユーザーが電話機やファクスを自由につなげたが、CATVや衛星放送では事業者が提供するSTB(セット・トップ・ボックス)を使わない限りサービスを利用できなかった。これはCATVや衛星放送網が端末規格を統一せず、機器メーカーにも規格を開放していなかったからだ。米国で1996年に改正された通信法ではCATVや衛星放送の端末開放を義務づけたが、業界の根強い反対で現在も実現していない。

 NBPでは、「CATVや衛星放送はデジタルでありながら端末開放ができていない」と厳しく指摘している。12年末までに端末開放に対応できるネットワークの構築を完了するよう求めている。

目立たぬように加わったネット中立性の規制

 今回のNBPでは、米国のブロードバンド整備で必ず話題に上る「ネットワーク中立性」の議論はあまり目立たない。「中立性に関するガイドライン(6項目)を出しており、それを順守するべき」と軽く触れているだけだ。しかし、ブロードバンド事業者は、ネットワーク部分についてFCCが提案しているいくつかの項目に神経をとがらせている。

 それは、(1)固定ブロードバンドの実際のパフォーマンスをFCCが計測しリポートとして発表する、(2)ブロードバンド事業者が公表すべきパフォーマンス情報を規制項目としてまとめる、(3)携帯電話事業者や中小企業、大企業向けに提供する卸売回線についての競争状況を適正化するための規制条項をまとめる――といった内容だ。

 従来、ブロードバンドサービスは事業者育成のため、規制の対象から外されていた。そのためブロードバンド事業者はパフォーマンス情報や卸売回線の競争状況などを考慮せず、自由にサービスを設計できていた。一方、ネットワーク中立性を主張する勢力は、積極的な事業者規制を望んできた。

 NBPはパフォーマンスという側面から、ブロードバンド事業者に具体的な規制を導入しようとしている。通信業界の主要サービスとして確固たる地位を築いたブロードバンドに対して、FCCが本格的な規制に乗り出す第一歩がNBPなのだ。

FCCの野心的計画が火を付ける政策論議

 今回発表されたNBPからは、FCCの新たな放送・通信行政の狙いがいくつも推測できる。従来の慣例から考えると、放送ネットワークの端末開放をブロードバンド政策に盛り込むのは不自然である。さらにスマート・グリッドの整備や医療のIT化、高度情報交通システムの整備など多岐にわたる分野を、ブロードバンドに関連づけて盛り込んでいる。

 NBPの前提となった景気対策法は、ブロードバンドの効用を様々な分野に波及させ経済活性化につなげることを目的に掲げている。しかし、昨年末にNBPの中間報告が発表されるまでFCCがここまで積極的な姿勢を示すとは、米国内の業界関係者は予想していなかった。

 今後、連邦議会でNBPを巡りどのような議論が展開されるかは予断を許さない。ただしFCCはNBPによって、放送業界や通信業界といった縦割り行政を捨て、ブロードバンドのなかの個別サービスとして放送や通信を規制しようとする狙いを鮮明に打ち出した。放送・通信サービスが融合する時代に向けて、米国の新たな政策や規制を模索する動きが始まった。

〈筆者プロフィル〉 小池良次(Koike Ryoji) 米国のインターネット、通信業界を専門とするジャーナリストおよびリサーチャー。88年に渡米、93年からフリーランスジャーナリストとして活動している。サンフランシスコ郊外在住。主な著書に「クラウド」(インプレスR&D)など。

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FCC、LTE、携帯電話、無線ブロードバンド、モバイル放送、VoIP、CATV

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