対日講和条約改訂草案の公表にあたり、とりまとめ役だったダレスは、1951年7月11日、ワシントンで声明を発表した。
ダレスはそこで、自らが走り回ってまとめた条約案を「仲直り条約」と呼んだ。「将来の日本を他の独立国と異なった地位に置いたり、日本の主権を拘束したりするような永続的制限を一切加えていないからだ」と理由を説明した。
■集団安全保障に日本封じ込めの意図も
日本の再軍備問題にも触れ、対日講和条約の「特異性」を指摘した。「通常の条約では勝者が敵国の再武装に制限を加えるのが例であるが、このような制限が規定通り実行されることはまれである」とし、「われわれは国連の原則を根本精神とする新しい近代的方法をもって対日講和に当たろうと計画している」と述べた。
それが集団的安全保障である。ダレスは語る。
「この原則の副産物として各国の軍隊が密接に結びつき合うようになり、その結果いかなる国の軍隊も一国の軍隊だけでは侵略の脅威となり得ないようになる。集団的安全保障条約の下に米軍と将来の日本軍、およびおそらくはその他の諸国の軍隊は一つに結合したものとなり、したがって仮に日本が将来戦争を起こそうとしても現実には絶対に不可能となる」
日本を集団的安全保障条約の一員とし、集団安全保障体制のなかに封じ込める発想である。この段階に至ってもダレスが日本を米国との2国間条約ではなく、集団安全保障条約体制の組み込もうとしているようにさえ聞こえる発言だ。
だが実際はそうではない。翌12日に仮署名される米国とオーストラリア、ニュージーランドによる3国安保条約を意識していたのだった。この物語で既に述べたように、オーストラリアとニュージーランドは、日本の再軍備に対して強い警戒感を持っていたからである。
ダレス声明は、実はこの条約をめぐる交渉の特徴として最初に暗に自身の働きぶりに言及した。
「もっぱら外交機関を通じて意見を交換する手段を用いたことで、各国にそれぞれの意見を思う存分提示する機会を与えた点では会議方式に勝っていた」と述べている。確かに、気候変動などをめぐる大規模な国際会議が実質的な合意に到達できぬ最近の例をみれば、多国間会議よりも、ひとりの調整役による交渉の方が意味ある合意をつくりやすい。
■「講和条約をどう受容れるか」難解な日経社説
ダレスが明確なメッセージを発しているのに対し、日本国内は複雑だったのだろう。7月13日の「講和条約をどう受容れるか」の見出しをつけた日経社説は、「社説文学」の典型といえるような訳のわからぬ文章である。
1951年 4月11日 | トルーマン大統領がマッカーサー元帥を連合国最高司令官、国連軍最高司令官、米極東軍・極東陸軍総司令官から解職。後任にリッジウェー中将 |
| 4月16日 | ダレス特使再来日 |
| 6月20日 | 日本政府、第1次追放解除を発表 |
| 8月6日 | 日本政府、第2次解除を発表。鳩山一郎ら追放解除される |
| 9月1日 | 米、オーストラリア、ニュージーランド、太平洋安保条約に調印 |
| 9月4日 | サンフランシスコ講和会議始まる |
| 9月8日 | 吉田首相、対日講和条約、日米安全保障条約に調印 |
| 12月24日 | 吉田首相、ダレスに台湾の国民政府との講和を確約(「吉田書簡」) |
例えば、こんなくだりがある。
「われわれにとっては全面講和、非武装、中立が理想であっても、現在の国際情勢からみてそれは不可能であるが、それは別として領土問題とか賠償問題とかについても、われわれの希望は一部認められなかった。したがってわれわれにとり百パーセントの満足とはいえないが、またそれはやむを得ないことであるが、われわれが満足できるかどうかは、わが国が敗戦国である点や現在の国際情勢から考え、また一日も早く講和を結ぶことが望ましいという立場から判断しなければならぬ」
要するに、不満はあるが受け入れるという趣旨をわかりにくい文章で書いている。
不満があるのは日本の世論だけではなかった。ダレスが中心になってまとめた案には、英国ですら不満あった。だから米英以外の国から批判が出ても、そこに驚きはなかった。
ダレス、仲直り条約、ワシントン、対日講和条約、サンフランシスコ、日経
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