日本経済新聞社

小サイズに変更
中サイズに変更
大サイズに変更
印刷

電子書籍「日の丸連合」 ソニーは米国勢に勝てるか

2010/6/17 9:00
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 ソニーが日本で電子書籍事業に再び挑む。凸版印刷、KDDI、朝日新聞社の3社と共同で書籍配信の事業企画会社を7月1日をめどに設け、専用端末を年内に売り出す。「日の丸」連合を組んで、先行するアマゾン・ドット・コム、アップルの米国勢に対抗するが、不安材料もある。

電子書籍配信事業の記者会見で握手する(右から)KDDIの高橋常務、米国ソニー・エレクトロニクスの野口シニア・バイス・プレジデント、凸版印刷の前田取締役、朝日新聞の和気デジタルビジネス担当(5月27日、東京都港区)

電子書籍配信事業の記者会見で握手する(右から)KDDIの高橋常務、米国ソニー・エレクトロニクスの野口シニア・バイス・プレジデント、凸版印刷の前田取締役、朝日新聞の和気デジタルビジネス担当(5月27日、東京都港区)

 「ソニーは日本のメーカー。電子書籍ビジネスをスタートするにあたっては、日本の文化を継承していこうという意志を持った方々と一緒にやりたい」。ソニーなど4社が5月27日に都内で開いた記者会見。ソニー・エレクトロニクスの野口不二夫シニア・バイス・プレジデントは、事業企画会社への出資企業がオールジャパンとなった理由を説明した。凸版など同席した3社の幹部も「日本の出版文化の発展に寄与したい」と日の丸を前面に掲げた。その2カ月前、伏線ともいえる出来事があった。

 3月24日、東京・神楽坂の日本出版クラブ会館。出版大手31社をメンバーとする「日本電子書籍出版社協会(電書協)」の設立総会が開かれた。記者会見では、代表理事に就いた講談社の野間省伸副社長が「日本と米国の出版市場は環境がだいぶ異なる。日本独自の電子書籍市場を構築したい。紙(の書籍)との共存共栄も図る」と発言。31社の代表者が一人ずつ紹介され、全員で集合写真に収まり、業界の結束をアピールした。

 その後の記念パーティーでは、新潮社の佐藤隆信社長のあいさつに続き、数人が来賓としてスピーチした。最も威勢がよかったのは、内藤正光・総務副大臣だった。「好むと好まざるとにかかわらず、(アマゾン、アップルという)2強が日本を席巻してくる。これを許したら日本の文化を守れるだろうか」

 市場縮小に悩む出版業界は、新たな商売の機会と電子書籍に期待する半面、IT(情報技術)企業のアマゾンやアップルに主導権を握られることを警戒している。配信する作品の選択から値決めまで牛耳られれば経営基盤は揺らぐ。IT企業と作家が直接、契約するような事態となれば、存在意義さえ問われる。電書協設立は米国から来る「黒船」へのけん制であり、個別に出版社がアマゾンなどに急接近する「抜け駆け」を防ぐ相互監視の意味合いもあるとみられる。

 独自端末、独自サービスを出版業界に突きつける米国流の急進的な手法に対し、ソニーは出版業界の理解を得ながら前に進む穏健路線をとる。「日本の文化を守る」をモットーに出版社の懐に入り込み、書籍コンテンツ集めをアマゾンやアップルより優位に進めようとの戦略だ。事業企画会社設立に関する報道資料には、講談社の野間副社長の賛同コメントを載せ、小学館、集英社、文芸春秋も賛同していると強調した。

主要出版社31社が集結した日本電子書籍出版社協会設立後、記者会見する野間省伸・代表理事(中)=3月24日、東京都新宿区

主要出版社31社が集結した日本電子書籍出版社協会設立後、記者会見する野間省伸・代表理事(中)=3月24日、東京都新宿区

 しかし、紙の書籍事業の温存や、配信価格の下落防止などが出版業界の本音だろう。ソニーがそれに引きずられた発想を持てば、消費者をうならせる画期的なサービスを生み出しにくい体質になりはしないか。

 ソニーは2004年にも日本で電子書籍事業を始めたが、うまくいかなかった。専用端末「リブリエ」を発売し、主要出版社との共同出資会社で配信も手掛けたが、紙の書籍の売れ行きが鈍るのを恐れてか、コンテンツを読める期間を2カ月に限定。中途半端なサービスとの印象をぬぐえず、消費者の心をつかめなかったのだ。

 アップルの音楽配信、グーグルのネット広告、ユーチューブの動画共有、そしてアマゾン、アップルの電子書籍……。世界的な注目を集めるサービスは既存の業界地図を塗り替える破壊力を秘め、価格決定などを巡りコンテンツ会社と衝突する場面が少なくない。いずれも技術を駆使した便利さ、面白さで消費者の支持を勝ち取り、それを武器に存在感を高めている。

 6年ぶりの仕切り直しとなるソニーの電子書籍事業も、単に米2社の物まねではなく、新鮮味のある工夫が成功の条件になる。出版業界との共同歩調にこだわるあまり、意思決定が遅れたり、角の取れた無難なサービスしか打ち出せなかったりすれば、先行組の追撃は難しい。

 講談社が京極夏彦氏の新作を紙の書籍の価格を下回る料金でiPad向けに配信するなど、出版社も日の丸連合に義理立てしてくれるとは限らない。ソニーが第一に力を注ぐべきは、消費者を味方にできる魅力的な仕組みをつくることだ。それができれば、出版業界での求心力もおのずと高まる。出版業界の反発を避けて優等生的な動きに終始すれば、「リブリエの悪夢」がよみがえりかねない。

(電子報道部 村山恵一)


このページを閉じる

本サービスに関する知的財産権その他一切の権利は、日本経済新聞社またはその情報提供者に帰属します。また、本サービスに掲載の記事・写真等の無断複製・転載を禁じます。