1億8000万人を巻き込みながら、世界規模で進行する「つぶやき現象」。誰もがタダで参入できる新たなメディアへと、企業も殺到している。日本もその例外ではない。「ツイッターをやらないことがリスクだ」とさえ言い切る企業もある。宣伝らしきものに冷めた消費者を相手に、ファンを増やす極意は。そして、そのメリットとは。ツイッター活用の先達に学ぶ。
国内の「公式企業アカウント」の数は2010年1月から4月の3カ月で約4倍に増え、2000を突破した。勢いは衰えを知らない。だが、徒手空拳でつぶやいたところで、そう簡単にフォロワーが集まるわけではない。多くの企業アカウントは、フォロワーの獲得に苦戦を強いられている。
その一方たった1人で、しかも口コミだけで、わずか半年のあいだに2万人に届かんばかりのフォロワーを集めた企業もある。冷凍うどんで有名な、「カトキチ」ブランドを擁するテーブルマーク「@KATOKICHIcoltd(http://twitter.com/KATOKICHIcoltd)」だ。つぶやきの主は、広報と宣伝を束ねるコーポレートコミュニケーション部の末広栄二部長である(写真1)。

写真1 「カトキチ」ブランドを擁するテーブルマークの末広栄二部長と同社公式アカウントのつぶやきの例
「おやじギャグ」で先行企業をごぼう抜き
「ツイッターを始めた目的は、生活者とのコミュニケーションの頻度を高くすること。結果として、いい会社だなと思ってもらえればいい。だから商品の宣伝は極力しないようにしました」。今では、講演会や取材の依頼がひっきりなしに舞い込み、すっかりツイッター界の有名人となった末広部長は、こう話す。
アカウントを開設し、つぶやき始めたのが2009年10月7日。フォロワー数は、09年末に5000を超え、2010年1月に1万を突破。4月末時点で1万9000以上と、国内屈指の規模に急成長した。
先行者利益も手伝ったが、東急ハンズや「TSUTAYA」を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブなど、テーブルマークよりも先にアカウントを開設していた数多くの有名企業をごぼう抜きにした実績は大きい。武器は「おやじギャグ」だ。
「おそれいりこだし」「ありカトキチ」「おそれいります うどん」「麺類皆兄弟」「Yesカトキチ」…。
これらのギャグを、末広部長はフォロワーとのコミュニケーションに頻繁に使う。フォロワーが数千人単位になれば1人で相手をするのは困難。なるべく多くのフォロワーと触れ合うには短いセンテンスの言葉が有効だ。だが、ありきたりの言葉では空虚に映る。そこで、返答に向き、かつカトキチや自社商品にちなんだギャグを開発した。
主力商品が「生産が追いつかないほど」の売れ行きに
コミュニケーションを重ねるほどフォロワーはファンとなり、優良顧客となる。いわゆる顧客とのエンゲージメント(きずな)が強くなり、企業の収益に跳ね返る。そう理解していたからこそ、末広部長は緩いコミュニケーションを、朝も夜も休日も、体力の続く限り、続けた。その結実が、企業アカウントとしては随一を誇るフォロワー数だ。
末広部長いわく、「メリットは計り知れない」。ファンとなったフォロワーがうどんの写真を投稿し、「カトキチなう」とつぶやいてくれる。店舗では、頼んでもいないのにカトキチ製品を陳列棚の手前に置いたり、未入荷の商品を店の人に注文してくれたりする。
主力商品の冷凍うどんは今春、「生産が追いつかないほど」の売れ行きを見せているという。さらには、タダで雑誌やテレビ各局が末広部長の取り組みを紹介してくれ、そのメディア効果でまたフォロワーが増える。自著の刊行まで決まった末広部長は、言う。
「ブランディングは恋愛と同じで、押しつけてもうまくいかない。お笑い番組をやっていると思っていて、私は司会者。PRしないの?と逆に心配されるくらいがちょうどいい。それで、いつしかカトキチに愛着を感じてもらえれば、うれしい」
同じようなことを言う広報“室長”がいる。「すき家」や「なか卯」など国内で3700店舗以上を展開する飲食チェーン、ゼンショーの藤田直樹広報室長だ。ツイッターでは、「広報室長」の名で通っている。
企業アカウントを支えるものは「愛」
「愛ですね。企業ツイッターを支えるものは。お一人お一人の」。2010年3月8日、広報室長は、つぶやいた。企業アカウントとは、どうあるべきか。「軟式」と呼ばれる、ともすればふざけていると取られるような緩いコミュニケーションでよいのか。広報室長として苦悶(くもん)した末に出てきたセリフだった。
もともとゼンショーグループとして最初につぶやきを発信したのは、すき家のアカウント「@gyudon_sukiya(https://twitter.com/gyudon_sukiya)」。こちらもツイッターを代表する人気の企業アカウントとして知られ、4月末時点で約1万3000人のフォロワーを抱える(写真2)。

写真2 ゼンショーが展開する「すき家」の店舗とすき家公認アカウント「@gyudon_sukiya」 すき家たんが立ち上げたアカウントは現在もすき家公認アカウントとして約1万3000人のフォロワーを抱える。
「新しいカスタマーコミュニケーションに挑戦してみたい」。神奈川県内のすき家でアルバイトをしていた学生が本社にそう申し出てきたのは、2009年12月と企業のツイッター活用としてはかなり早い時期だった。学生は2010年3月に大学を卒業し、大手通信会社に就職したため、ここでは名前を明かせない。ツイッターでの通り名は「すき家たん」だ。
広報室長は、社員でもない学生バイトがブランドを代表して世間に発信することへのリスクを憂慮したが、「現場の人間だからこそできるコミュニケーションがある」と信じ、腹をくくった。かくして広報室の「監視」の下「公認」する形で、すき家のアカウントは始動する。
すき家たんは、自分が働く店舗は公開せず、その代わりにほかのすき家に足を運んでは、新メニューを写真に撮って紹介したり、メニューの組み合わせを薦めたりした。10年1月からは、1日当たり100回から150回もつぶやき、積極的にフォロワーとの交流を深めた。そのほとんどは、すき家に何ら関係がない、自分の趣味や日常の話である。
企業アカウントの重さに苦悩する広報室長
「企業名を背負ってこんな発言をしていいのか」といった指摘もあった。だが、素のやり取りが好感を呼び、人気は急上昇。すき家たんは一躍ツイッター界のスターダムにのし上がった。ところが、卒業の時期は日々刻々と近づく。そろそろ後任や引き継ぎのことも考えなくてはならなくなった2月下旬、ゼンショーの広報室長が自らのアカウント「@zensho_pr(http://twitter.com/zensho_pr)」を開設した。
「企業アカウントの『中の人』が看板を背負いながら個人的な趣味趣向をツイートすることについての是非が問われています」「企業が従来のように徹底的に公器としてしか発言しない存在であろうとするなら、ツイッターはそもそも企業には向かない(中略)人知れず苦悩なう」。
広報室長は、すき家たんとの軽妙なやり取りで人気を集め、自らのフォロワーを着実に増やす一方、こう心境を吐露した。1人の人間として、つぶやきたい。でも、広報室長としてまさに企業の看板を背負う自分がそれをしていいのか。答えは、フォロワーが教えてくれた。

写真3 ゼンショーの広報室長が苦悶の末、自らのアカウント(@zensho_pr)に掲載した「愛」についてのつぶやき
2月下旬、すき家たんを半ば本気で慰留したかった広報室長は、「3月7日までにすき家たんのフォロワーが1万人を超えたら、4月以降もファンとしてアカウントを継続する」という約束を、観衆の前ですき家たんと交わしていた。
賭けが始まった2月末時点で、すき家たんのフォロワー数は7500ほど。1万はかなり難しいラインだった。期限前日の3月6日時点でも9000弱。だが、引退決定かと思われた翌7日、既存フォロワーが周囲に呼びかけるなど懸命に働きかけ、一気に1万を超えた。
あるフォロワーがこの珍事を持ち出し、広報室長に「すき家たん愛≒すきや愛だと思いますけどね」とつぶやくと、「そのあたりに大事な答えがある気がします」と室長。そして冒頭の「愛ですね」発言につながったというわけだ(写真3)。
「牛丼は美味しい。でもすき家たんが勧めてくれた牛丼はもっと美味しい」
さすがに就職したすき家たんのつぶやきは減ったが、今でもファン代表としてのつぶやきは健在。一方で広報室長は、まるですき家たんの後任を務めるかのごとく、フォロワーとのやり取りを巧みにこなし、アカウント開設からわずか2カ月強、4月末時点で4000人をうかがうフォロワーを集めた。
ただし、すき家たんばりの“ゆるキャラ”を演じているわけではない。吉野家が牛丼並を270円に値下げした直後、すき家と松屋がさらに安い250円に値下げし、マスメディアが「牛丼戦争ぼっ発」「消耗戦へ」などと報じた4月上旬のこと。「すき家は1400店以上ある中の1割にも満たない店舗での期間限定キャンペーンです。他社様も期間限定。消耗というほどの消耗になるものでしょうか」「小さな情報が勝手に大きく報道された結果です」と締まったコメントで、広報室長らしく報道を切って捨てた。
人気マンガ「キン肉マン」の作者が吉野家とのかつての禍根をツイッターで披瀝(ひれき)し、吉野家への非難がゼンショーのフォロワーのあいだでくすぶった4月中旬は、「吉野家さんというブランドがあってこそ牛丼がここまで来られたと個人的には思います。経緯がどうあれ、牛丼業界を温かく見守ってください」とつぶやいた。これにフォロワーは「大人の対応」などと喝采を浴びせ、話題を呼んだ。
2010年3月期、すき家が好調だったゼンショーは、過去最悪の赤字に転落した吉野家とは対照的に最終利益を上方修正し、前年比59%増の約40億円とした。藤田室長は「業績に大きな影響を与えるほどの効果は、まだツイッターにはない」としながらも、こう語る。
「会社やグループ店舗について、どういう所が理解されていて、どういう所が誤解されているか、ほぼ生の声を聞くことができることがメリット。そして、ゼンショーに『知人』がいるということで、会社や店舗に親近感をもっていただければ幸いです」
商品やサービスの情報を淡々と流すだけの企業アカウントもたくさんある。4月末で約4万4000と、企業としては国内最大規模のフォロワーを抱えるユニクロは、お得なセール情報などを流すにとどめている(写真4)。

写真5 エフエム東京の企業アカウントの画面 エフエム東京は情報の入り口と出口として企業アカウントをマルチに使いこなしている。

写真4 ユニクロの企業アカウントの画面 約4万4000のフォロワーを抱えるユニクロは、商品やサービスの情報を淡々と流すだけにとどめている。
ただ、顧客と企業の「つながり」や「きずな」を自然な形で強固にできることを、カトキチのテーブルマーク、すき家のゼンショー、この2つの事例は教えてくれた。ゼンショー広報室長のフォロワーの男性は、室長の一連の苦悩を理解したうえで、こうつぶやいた。
「ドラ焼きは美味しい。でもドラえもんがくれたドラ焼きはもっと美味しい。牛丼は美味しい。でもすき家たんが勧めてくれた牛丼はもっと美味しい。ただの冷凍うどんより、カトキチさんがおそれいりこだしって言ってくれたら次も買いたい!だなぁ」
「リスクはない。やらないことがリスクだ」
「リスクはない。やらないことがリスクだ」――。そう言い切るのは、9000人以上のフォロワーを抱えるエフエム東京の広報アカウントを1人で運用する、編成制作局編成部の藤井大輔氏。「ツイッターは、メールと同じように消費者や顧客とのコミュニケーションのインフラとして、当然のものの1つになってくる。その門扉を閉じても、いいことはない」。
番組のプロモーション、顧客サポート、リスナーの声を拾うマーケティング、番組や報道の取材、広告主への営業活動…。エフエム東京はツイッターを、情報の入り口と出口としてマルチに使いこなしている(写真5)。
「風評被害に遭う可能性が高くなるのではないか」「つぶやいて問題が生じたら面倒だ」――。ツイッターの活用をちゅうちょする企業の多くが、そう懸念している。確かに、そういうこともある。
UCC上島珈琲は10年2月、キャンペーンサイトの告知をするために、ツイッターでアカウントを開設、不特定多数のユーザーに向けてつぶやいた。その手法がまずかった。「コーヒー」「懸賞」などのキーワードを含むつぶやきを投稿したユーザーを機械的に検索し、そのユーザーにキャンペーンの告知を自動的につぶやくシステムを利用したのだ。これが「スパム」だと不評を買い、UCCのアカウントは“炎上”した。
ただし、炎上を鎮火させたのもツイッターであり、ユーザーの好意である。即座にアカウントを閉鎖し、真摯(しんし)に陳謝したUCCの姿勢を見た多くのユーザーが、応援や励ましのつぶやきを贈った。この事件の収集に追われたグループEC推進室の坂本晃一室長は、こう振り返る。
「メッセージを読んで、本当に涙が出てきた。温かいファンの皆さんに救われた」
行き過ぎた宣伝活動をすれば手痛いしっぺ返しを食らう。だが、気をつければよいだけのこと。たとえ問題発言をする社員がいたとすれば、その社員は現実社会のどこかでも問題発言をするだろう。逆に、常に衆人環視にさらされているツイッターでは、企業の看板を背負ってまでおかしなことをする人間はめったにいない。
ここで紹介した企業は、多くのユーザーと緩く、しかし温かく、ツイッターを介して付き合っている。考えてみれば、その昔、商店街の店主はなじみの客とたわいのない話を交わしていたものだ。
企業の組織化が進み、いつの間にか顧客とのあいだに大きな隔たりが生じていた。その溝を埋めるように、ツイッターが機能し始めている。
(電子報道部 井上理)
[本記事は、ムック『ツイッター』(日経ビジネス編、2010年5月発行)の情報と新規の取材を基に執筆]
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