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蓄電池の装備で「エネルギー自給型」に向かう住宅

2010/7/26 7:00
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 太陽電池や燃料電池といった「小さな発電所」を備えた住宅が増えている。つくった電力を自宅で消費することで、電力会社などから購入するエネルギー量を減らせる点がウケている。

 こうした動きの先を見据えてか、このところ住宅メーカーが開発に力を入れ始めたのが蓄電池を装備する住宅である。発電した電力を自宅に装備した蓄電池にためておくことで、エネルギーを自給できる住宅の開発である。

図1 大和ハウスが埼玉県春日部市の住宅展示場に設置した「スマ・エコハウス」  容量6kWhのリチウム(Li)イオン2次電池と、出力5.1kWの太陽電池を設置した。延べ床面積は254.86m2(77.1坪)。同社のシミュレーションでは、政府が定める新省エネ基準による一般住宅に比べて、CO2排出量を65%、光熱費を102%削減(支払いはなくなって少し収益がある)できる。

図1 大和ハウスが埼玉県春日部市の住宅展示場に設置した「スマ・エコハウス」  容量6kWhのリチウム(Li)イオン2次電池と、出力5.1kWの太陽電池を設置した。延べ床面積は254.86m2(77.1坪)。同社のシミュレーションでは、政府が定める新省エネ基準による一般住宅に比べて、CO2排出量を65%、光熱費を102%削減(支払いはなくなって少し収益がある)できる。

 例えば大和ハウス工業は2010年6月23日、2020年度をメドに「エネルギー自給住宅」を商品化すると発表した。住宅内で消費するエネルギーを100%自給できるというコンセプトである。同社は、そこに向かうステップの第1弾として、リチウム(Li)イオン2次電池を装備する住宅「SMA×EcoHOUSE(スマ・エコハウス)」の開発に着手した(図1)。7月10日から、実証実験を埼玉と愛知の2カ所の住宅展示場で実施し、来春には商品化したいという。

 パナソニックやトヨタホームも、蓄電システムを採用した住宅の実用化を2011年中に目指すと表明している。伊藤忠商事グループの伊藤忠都市開発は、2010年1月に販売を開始したマンション「クレヴィア二子玉川」に出力10kWの太陽電池を搭載すると共に、蓄電システムを装備した。

 ここに来て住宅メーカー各社が相次いで蓄電池を装備する住宅やマンションを発表してきた背景には、政府が打ち出した二つの目標と、それを基にした各種の施策がある。

「ZEH」が標準に

 一つは、前鳩山政権が打ち出した「温暖化ガスの排出量を2020年までに1990年比で25%削減する」という目標である。この目標を達成するには、国内のエネルギー消費の約3割を占める民生部門で大幅な省エネを実施しなければならない。

 そこで経済産業省は、この6月に発表した「エネルギー基本計画」で、2020年までに「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」を標準的な新築住宅にすることを掲げた。ここで「ネット・ゼロ」とは、太陽電池などでつくった余剰電力を電力会社などに売る量と、悪天候時や夜間などに電力会社から買う電力量がほぼ等しくなり、外部から購入するエネルギー量が事実上ゼロになることを指している。

 差し引きゼロになるということは、住宅にもし大容量の蓄電池が備わっていれば、そこに充電したり放電したりすることで完全な自給自足が狙えるということ。各住宅メーカーは、これを見据えているのである。

 政府が打ち出したもう一つの目標は、2009年8月に当時の麻生政権が決めた、太陽光発電の導入目標である。2020年に当時の約20倍に当たる約2800万kW、2030年には同約30倍の約5300万kWという数字を設定した。この目標は、基本的な方向としては民主党の現政権にも引き継がれている。

 この目標に近づくための政策として、太陽電池の導入では国レベル(1kW当たり7万円)、地方自治体レベル(東京都の場合1kW当たり10万円)で各種の補助金が支給されている。加えて2009年11月からは、太陽光で発電した電気の余剰分を電力会社が従来の約2倍の価格である1kWh当たり48円で買い取る余剰電力固定買取制度がスタートした。こうした手厚い施策により、住宅向けの太陽電池需要が立ち上がり始めている。例えば太陽光発電協会がこの6月に発表した出荷統計によると、2010年の1~3月期の国内出荷は、発電能力ベースで21万2435kWとなり、前年同期比で約3倍という高い伸び率となった。

逆潮流問題、解決のカギに

 ただし、このまま太陽電池の導入量が増えていくと、太陽光の当たり方によって発電量が大きく変動する電力が大量に既存の電力網に流れ込み始める(逆潮流)。そうなると電力網の電圧や周波数の変動が起こり、コンセントにつないだ機器が正常に動作しなかったり、事故の原因になったりする可能性もある。

 電力会社の業界団体である電気事業連合会によると、既存の電力網に特段の対策なしで電力を流し込める太陽光発電の電力は1000万kWだという。2009年までの累積導入量は約260万kWなので、まだ全体としては許容範囲にある。しかし前述のように、2010年に入って導入量が拡大している。現時点では300万kWを超えているとみられ、1000万kWに達するのもそう遠い話ではない。そうなると、電力の安定供給に支障をきたす恐れが出てくる。

 この不安定化の問題を解決するには、住宅などの需要側、または電力網側(いわゆる系統側)に大型の蓄電池を置き、急な変動を緩和(平準化)しなければならない。経済産業省の次世代送配電ネットワーク研究会がこの4月に発表した報告書によると、2020年までに、系統側だけに蓄電池を置く場合は1.4兆円、住宅のような需要側に設置する場合は45.9兆~57.2兆円もの投資が必要になる。その意味で、住宅メーカーが今から蓄電池付きの住宅を販売することは、将来の系統安定化対策を先取りしたものだと見ることができる。

 ただし、大容量の蓄電池は現時点では非常に高価なもの。住宅の購入者にとってみれば、蓄電池に投資するだけの経済的なメリットがないと、なかなか導入には踏み切れないのも事実だ。むしろ、余剰電力買取制度が存在する状況下では、太陽電池の電力を蓄電池にためるよりも、売電した方が経済的には有利になってしまう。

「おサイフモード」が登場

 この課題に対して、大和ハウスは一つの答えを出しつつある。それは、開発中の「スマ・エコハウス」に組み込まれている家庭用エネルギーマネジメントシステム(HEMS:Home Energy Management System)のコントローラを見ると分かる。

 同システムでは、太陽電池で発電した電力をどう使うかを2種類のモードで切り替えられるようになっている(図2)。一つは、発電した余剰電力を蓄電池にためておき、足りなくなったときに放電して住宅内で消費する「ecoモード」。もう一つが、太陽電池の電力をすべて売電して収入を得る「おサイフモード」である。

 おサイフモードにおいて、蓄電池をどう使うかというと、夜間の安価な電力をためるのに用いる。蓄積した電力は日中に住宅内で利用し、太陽電池で発電した電力は住宅内で使わず、すべて売電する。通常、余剰電力固定買取制度の下では、電力メーカーはこうした使い方には難色を示すが、大和ハウスによると、その使い方を容認してもらう方向で話し合いが進んでいるという。

図2 大和ハウスのHEMS(同社は「D-HEMS」と呼ぶ)では、蓄電池の使い方を「ecoモード」と「おサイフモード」の二つから選べるようになっている

図2 大和ハウスのHEMS(同社は「D-HEMS」と呼ぶ)では、蓄電池の使い方を「ecoモード」と「おサイフモード」の二つから選べるようになっている

 こうした切り替えが随時可能になっていれば、余剰電力固定買取制度があるときはおサイフモード、有利でなくなってきたらecoモードと、顧客はそのときの状況に応じて蓄電池を使い分けて投資を回収できる。同社は蓄電池の価格は明らかにしないものの、おサイフモードによる収益によって10年で初期コストを回収できるようにしたいとする。蓄電池は、同社も出資しているエリーパワーが製造するLiイオン2次電池である。エリーパワーは量産規模を拡大することで電池のコストダウンを図るとしている。

 現行の余剰電力固定買取制度は、毎年買い取り価格を見直しながら徐々にそれを下げていく仕組みを採る。2014年に価格改定の最終年度を迎える。これとは別に、民主党がマニフェストにかかげた再生可能エネルギーの全量固定価格買取制度の検討も進んでおり、今後どうなるかは予断を許さない。しかし制度がどうなるにせよ、長期的には、再生可能エネルギー導入促進を目的とした買取制度は普及の進展につれて消滅する方向に進む。そうなると、エネルギー自給型の「ecoモード」が威力を発揮し始めると大和ハウスは見ている。蓄電できる電力量は限られているので、使える電力量が見える化されることで、省エネをもっと重視した生活に顧客を誘導できるという副次的な効果もある。

政策の動向で普及が急加速も

 住宅への蓄電池の装備を加速する要因はこれだけではない。前述のように、系統不安定化の問題を解決するための社会的な意義があるとすれば、蓄電池の装備に補助金が付く可能性もある。このように、どのようなモードで運用したらよいのかは、その時々の政府の制度設計によって大きく変わってくる。同社は、制度が変わるたびに収支計算などをシミュレーションし、顧客に通知するサービスを実施する予定という。

 今後、分散電源や蓄電池が至るところに配置されるようになると、地域レベルでスマートグリッド(次世代送電網)とどう連係させるかといった課題も出てくるだろう。

 本来、電気は融通しやすい性質を備えたエネルギーなので、コントロールできる領域が広くなるほど、全体最適が図りやすくなる。2020年に太陽電池で2800万kWが発電され、それを電力系統に流そうとするとき、高価な蓄電池の使用量をいかに抑えながら系統を安定化させるかという実証研究を、各研究機関や企業が相次いでスタートさせている。

 現在は全体最適の観点から、系統側に最小限の蓄電池を設ける方向で検討が進んでいるが、今後蓄電池の価格がどこまで下がり、どの程度エネルギー自給型の住宅が増えるかによって事情は変わる。住宅用蓄電池としての役割も果たす電気自動車の普及動向も含め、蓄電池の配置やその制御方法は、極めて重要な戦略的技術として今後も注目を集めることは間違いない。

(日経BPクリーンテック研究所 藤堂安人)


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