旧社会保険庁が1月に日本年金機構として再スタートを切って半年がたった。公的年金の加入記録問題で批判を浴びた末に、人々との接点だった旧社会保険事務所は年金事務所に生まれ変わった。利用者の間で「待ち時間が長い」など不満は根強いが、「応対は親切になった」と評価する声も目立つ。公的年金は第2の人生の柱。その相談を実りあるものにするための年金事務所活用術をまとめた。

年金事務所サービスコンテストで苦言を呈した長妻厚労相(左)(手前右は日本年金機構の紀陸理事長)
「この種のサービス改善は誰でもやれるはず」。長妻昭厚労相の苦言が何度も飛んだ。日本年金機構が6月26日に実施した年金事務所の「サービスコンテスト」の会場での出来事だ。
全国312の事務所から絞り込まれた10の事務所が改善事例を発表した。ところが、「事務所内の整理整頓」「あいさつの徹底」「窓口案内表示をわかりやすくした」といった例が目につく。訪れる利用者が期待する年金相談機能の充実につながるような事例は数えるほどしかなく、長妻氏の表情は終始険しかった。
研修などを強化
日本年金機構では相談機能向上のため、担当者の研修などを今後強化する方針。「相談担当者の全体的なスキルアップと複雑な相談内容でも正確・迅速に答えられる体制を目指す」(年金機構の本部)という。ただ、年金機構が「お客様」と呼ぶ利用者も、これからは受け身ではなく「年金事務所の相談機能を積極的に使いこなす準備や工夫が必要」(社会保険労務士の大園要さん)だろう。
日本年金機構には年金相談をする窓口が大別して2つある。1つは機構が直接運営する年金事務所。もう1つは年金相談センターだ。1月から運営を全国社会保険労務士会連合会に委託し、「街角の年金相談センター」の名称で、全国に51カ所ある。
年金事務所は国民年金や厚生年金の加入事務や保険料徴収の仕事もあり、年金給付の相談や手続きをするのは「お客様相談室」という部署だ。一方、年金相談センターは年金給付の相談に特化。組織上の違いはあるが、両方とも各相談ブースに「社会保険オンラインシステム」の窓口端末を備えてあり、相談担当者がこれを操作しながら相談を進めるやり方は同じだ。
社会保険オンラインシステムには加入者ごとに割り振った基礎年金番号で一元管理している加入期間記録などのほか、現時点で誰のものか判明していない記録も数多く蓄積されている。
金融機関がサービスの一環で開くことが多い年金相談会には、この窓口端末はない。記録の確認をしながら相談したいなら年金事務所か年金相談センターに一度足を運んでみよう。

年金相談は「窓口端末」で加入記録を確認しながら進められる(東京・渋谷年金事務所)
年金相談は「住所を管轄する事務所やセンター以外では受け付けてもらえないと思い込んでいる人が多い」(社会保険労務士の井上大輔さん)が、それは誤解。本人確認できるもの(運転免許証や年金手帳など)を持参すれば、全国どこでも相談できる。会社員なら勤め先近くも活用しよう。
大事なのは年金相談で何をどんなふうに聞き、確認すればよいかだ。年金相談の目的は「いつから年金をどのくらいもらえるのか」といったことを知ることだ。ただし年金制度は複雑で用語も難しいので、「何をどういう順序で聞いたらいいかわからない人が多い」(社会保険労務士の鈴木ひろみさん)。表Aに老齢年金を中心に質問・確認したい疑問をまとめた。

老齢年金の相談でまず確認するのは、「自分は年金をもらえるのか」。公的年金は原則として25年の加入期間がないともらえない。仕事や勤め先が頻繁に変わった人や専業主婦などは公的年金の未加入期間や保険料未納期間が目立ち、受給開始年齢の60歳や65歳の時点でも受給資格期間を満たせない人が多い。
こういった人にどれだけ有効なアドバイスをできるかが、「相談担当者の腕の見せ所」(全国社会保険労務士会連合会常任理事の久礼和彦さん)だ。受給資格期間は保険料納付済み期間、保険料免除期間、合算対象期間の合計。難しいのが合算対象期間だ。これは保険料を払っていなくても受給資格期間に計算上含める期間。例えば1961年4月から86年3月までに会社員の妻が国民年金に任意加入できるのに加入しなかった期間だ。自分に合算対象期間があるか、担当者に聞いてみよう。
保険料を払った記憶や記録があるのに、国の記録が欠落していたり未統合だったりする「年金記録問題」。これについても年金相談で解決できる場合が少なくない。前出の窓口端末では、相談者の基礎年金番号と番号は違っても、相談者と同じ生年月日、同じ氏名の未統合の加入記録などを検索できる。相談担当者がそうした機能を生かして「相談者自身が忘れていた記録まで見つかるケースもある」(東京・渋谷年金事務所の熊倉雅彦副所長)という。記録の確認は書面でもできるが、実際に相談窓口を訪れて相談担当者に質問・確認する方が早く解決できる場合もあるようだ。
受給資格期間の確認などが終わったら「いつから、いくらぐらいもらえるのか」を聞く。ただ、60歳以降働いて給料をもらっていたりすると年金が減らされる場合がある。この減額調整の仕組みは複雑なので、相談担当者に念入りに聞こう。
相談・手続き、別に
厚生年金基金や共済組合については仕組み上、社会保険オンラインシステムにすべての加入記録が蓄積されてはいない。それでも「わかる範囲で丁寧に答えるようにしている」(熊倉さん)ので、相談担当者に聞いてみよう。一方、離婚に伴う年金分割の相談は1人でもできるので、遠慮なく活用したい。
老齢年金以外では障害年金の受給手続きが複雑で時間もかかる。早めに相談に行くのがいいだろう。

表Bに年金相談を受ける際の注意点をまとめた。まずは相談の日と年金請求書の提出など手続きの日は別にしよう。年金請求書を提出する際に前回の相談内容をもう一度確認でき、理解が深まる。相談に訪れる際には、表Aを参考に質問や確認したいことを箇条書きにしよう。本人確認できるものを忘れないように。「夫が妻のことを聞く場合でも、委任状を忘れないでほしい」(東京・国分寺年金相談センターの富田孝一センター長)という。
初回の相談員は原則選べないが、もしも親切な相談員に当たったら2回目以降も指名して相談できる。
日本年金機構の紀陸孝理事長は「機構の本部も事務所もお客様のために仕事をしている」と話す。その言葉が本物かどうか、利用者も年金相談の対応ぶりでぜひ評価・判断してほしい。
(後藤直久)
[日本経済新聞朝刊2010年7月25日付]
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