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年金型生命保険、還付どうなる? 「二重課税」最高裁判決

2010/7/18付
ニュースソース
日本経済新聞 朝刊

 最高裁判所は6日、死亡保険金を年金の形で受け取る生命保険について、相続税と所得税の両方を課税するのは「二重課税で違法」との判決を下した。これを受けて国は同種契約の生命保険で徴収し過ぎた所得税を還付する方針だ。今回の最高裁判決は金融商品の課税の在り方を幅広く見直す契機にもなりそうで、家計に与える影響も大きい。還付の対象や手続きなど、現時点で分かっている範囲で対処策をまとめた。

 Q1 何が違法とされたのか。

 原告の女性(49)は夫が死亡した2002年、死亡保険金を一時金で4000万円受け取った。また10年間に総額2300万円を年金で受け取れる権利(年金受給権)を相続し、1年目分の230万円を得た(図A)。

 死亡保険金のうち、一時金で受け取るものは相続税の課税対象とされ、所得税は課されず、二重課税の問題はない。一方、年金で受け取るものは、一定割合(今回のケースでは60%)が相続税の課税対象とされたうえで、毎年受給する230万円に所得税が課せられた。

 最高裁は1年目の年金に課された所得税を「違法な二重課税」と判定。その根拠として「少なくとも1年目の年金は全額が元本で、運用益部分がないため、所得税は課税できない」と説明した。国税庁は「判決に基づき、所得税の課税対象とならない部分の算定方法などの検討を進めている」としており、同種の年金形式の死亡保険金を受け取った人は「少なくとも1年目分にかかった所得税の還付は求めることができる」(税理士の山本守之さん)。

 2年目以降に受け取る年金には相続後に発生する運用益が含まれ、運用益部分は所得税が課される可能性があるが、最高裁は2~10年目分については判断を示さなかった。「課税部分の計算は難しい」(税理士の岡田俊明さん)との指摘もある。

→次ページは「どのような保険商品が還付の対象となるのか」

 Q2 どのような保険商品が還付の対象となるのか。

 今回の裁判で問題になったのは「年金払い特約付き生命保険」。契約者(保険料負担者)で被保険者でもある夫が亡くなり、死亡保険金の受取人に指定されていた妻(原告)が、死亡保険金を一時金や年金で受け取ることができる保険(図A)で、生保各社は「収入保障保険」「家族生活保障保険」などの名称で販売している。

 同種契約の保険を相続し、現在保険金を年金で受け取っている契約数は、日本生命が約3400件、明治安田生命が約3600件、第一生命は約4500件という。「どの商品が該当するのか国税庁に問い合わせ中なので、件数の公表は控えたい」とする大手生保もある。しかも、これは現在受給中の件数で、既に保険金の支払いが終了している件数については各社一様に「把握できていない」と話す。

 一方、所得税の還付請求の期限は5年。現行では04年以前に受け取った年金分は時効により還付を受けられない。ただ、野田佳彦財務相は5年を超えた分についても「救済は必要。法的な措置が必要なのか、政令改正なのか、よく検討したい」と公式に表明しており、04年以前に受け取った分も特例的に還付の対象になる可能性がある。

 また、今回問題となった死亡保障保険以外にも、保険金を年金で受け取ることができる保険商品が幾つかある(表B)。例えば「個人年金保険」。年金の受け取り開始後に契約者が亡くなり、受給権を遺族が相続して年金で受け取った場合、同様に相続税と所得税の課税対象となる。「判決の趣旨からすると、個人年金保険や学資保険においても、相続人が1年目に受け取る年金に所得税を課するのは違法ということになる」(税理士の林裕二さん)

 さらに、保険以外にも相続税と所得税の二重課税が問題視されている商品がある(表B)。金融税制に詳しい税理士の湊義和さんは「今回の判決は相続税と所得税の課税体系の抜本的見直しに発展する可能性が高い」と指摘する。

→次ページは「実際に還付を受けるにはどうしたらよいか」

 Q3 実際に還付を受けるにはどうしたらよいか。

 まず自分が年金形式で受け取った保険金が還付の対象になるかどうかを確認する必要があり、税務署のほか、実際に年金から所得税を天引き(源泉徴収)した生命保険会社に聞けば分かる。ただ、国税庁は具体的にどの商品が還付の対象になるのか、判断基準も含めてまだ公表しておらず、現段階では自分のケースが還付対象に該当するかどうかの確定的な回答は税務署からですら得にくい状況だ。

 遅くとも年末までには「少なくとも1年目の年金には所得税を課さない」という趣旨の税法の解釈変更のほか、具体的な還付の対象や手続きを発表するとみられるので、国税庁の動向に注意しよう。

 還付対象に該当すれば、税務署に対して課税の誤りの訂正を求める手続き(更正の請求)を行う必要がある。税務署の方からわざわざ親切に還付することはなく、自ら行動しなければ税金は取り戻せない。誤りの内容を記載した請求書を管轄の税務署に提出することになりそうで、税務署がその請求を認めれば、納税額の減額の措置(減額の更正)がとられ、還付となる。

 Q4 還付されるのは所得税だけか。

 住民税も還付される可能性が高い。住民税などの地方税は「所得税法で認定した所得に対して課税するのが大原則」(総務省)。年金で受け取った保険金が所得税の課税対象外となれば、当然、住民税も課税対象外となる。

 住民税額が変わると、影響は広範に及ぶ(図C)。例えば、国民健康保険料。東京23区や横浜市などは国民健康保険料を算出する際に、住民税額に一定の料率を掛ける「住民税方式」を採る。住民税の額が変われば、過去に徴収した国民健康保険料も修正する必要が出てくる。

 介護サービスや医療を受ける際の負担上限額も、住民税が課税世帯か非課税世帯かで自己負担の上限額が変わる。家計への影響は大きい。

 今回の判決について、ファイナンシャルプランナー(FP)からも驚きと戸惑いの声が上がっている。死亡保険金は「年金方式」で受け取った方が「一時金」に比べて受取総額は一般的に大きくなる。しかし、年金方式では税金や保険料の負担が増えるため、多くのFPが「手取りベースでは一時金の方が有利」と助言してきたからだ。

 今回の判決で少なくとも1年目の税金については年金方式の難点が解消された。FPの竹下さくらさんは「死亡保険金の受け取りを選択する時に、ライフプランに応じて選択の自由度が高まる可能性がある」と話している。

(手塚愛実、後藤直久)

[日本経済新聞朝刊2010年7月18日付]


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