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和歌山・高野山 「宿坊」体験 ミシュラン人気を探る

2010/7/21付
ニュースソース
日本経済新聞 夕刊

奥之院の弘法大師をまつる御廟に運ぶ食事を作る御供所(右)

奥之院の弘法大師をまつる御廟に運ぶ食事を作る御供所(右)

 816年、空海(弘法大師)が真言密教の修行の地として開いた高野山。人口4000人弱の静かな町を訪れる外国人観光客が増えている。中でもフランス人宿泊者の伸びが著しい。2009年は前年比3割増の約1万3000人。世界遺産に登録された後、09年にミシュラン・グリーンガイド・ジャパンで三つ星を獲得したことで弾みがついた。ミシュランを手に、高野山を歩いてみた。

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 大阪から南海電鉄急行で高野山に向かう。和歌山の橋本駅を過ぎるころから、車窓は緑深き森に包まれる。高野六木といわれる杉、ヒノキ、高野マキ、赤松、モミ、ツガなどが茂る原生林だ。

 ミシュランの冒頭の言葉が頭に浮かんだ。「深い森に覆われた山の頂にある高野山は、日本における最も大きな宗教都市である」。ガイドのおすすめは宿泊施設を備えた寺「宿坊」に泊まり、早朝のお勤め「勤行」(ごんぎょう)を体験すること。フランス人に人気のコースをたどることにした。

 標高1000メートルの町に着くと、真夏でも涼しく感じる。総本山である金剛峯寺(こんごうぶじ)を中心に117の寺が立ち並ぶ。西端の大門から、東端の奥之院まで約5キロ、町全体がひとつの大きな寺の境内のようだ。空海は宗教哲学者であったと同時に庶民教育、土木灌漑(かんがい)の先駆者でもある。地下納骨堂とされる御廟(ごびょう)には、今なお1日2回、僧侶が食事を運んでいる。1200年前から淡々と続くお勤めを、外国人は敬意のまなざしで見つめるという。

 高野山には52の宿坊があり、外国人客が半数を超えるところもある。英語で法話を行う蓮華定院(れんげじょういん)や英文案内を工夫する清浄心院(しょうじょうしんいん)などである。中でもフランス人は古い趣ある寺を好む。そのひとつ、無量光院にお世話になった。

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 同院では十数年修行を続けるスイス人僧侶のクルト厳蔵さんが、5カ国語を駆使して外国人客に対応する。フランス人とは数時間にわたり宗教談義をかわすことも珍しくない。夜はお膳で運ばれた精進料理を部屋でいただく。中庭からのモリアオガエルの鳴き声、にわかに降り出した雨だれの音がBGMだ。

→次ページは「ミシュランが『最も魅力的』と評する場所とは」

勤行を終えて歓談するオーストラリア人僧侶(中)ら(無量光院)

勤行を終えて歓談するオーストラリア人僧侶(中)ら(無量光院)

 翌朝は朝6時からの勤行に参加した。まだ薄暗いなかロウソクと灯明の明かりが揺れ、僧侶が唱えるお経が響く。傍らでは「護摩焚き」。護摩の木を焚き香木などをくべながら祈願をするものだ。毎朝1時間半ほどかけて護摩焚きをするのは、高野山でも珍しい。

 炎が50センチほど立ち上り、木がはぜる音に読経が重なる。本堂はお香と護摩焚きの香りに包まれ、なんとも幻想的だ。ふと傍らをみると、宿泊中のイタリア人が静かに手を合わせていた。「すべての宗教は、真理や宇宙との一体感につながる『神秘性』を求める」と土生川(はぶかわ)正道住職は、宗教を超えて勤行が人気の理由を説く。

 ミシュランで「高野山で最も魅力的な場所」とされるのが、墓所である「奥之院」だ。樹齢数百年の杉が生い茂る森のなか、20万基を超す慰霊塔が並ぶ。織田信長、武田信玄といった名武将の苔(こけ)むした墓も交じる。森の霊気に包まれて30分ほど歩くと、弘法大師がまつられた聖地、御廟に着いた。フランス人を父にもつ学生レミー・ジャフレさん(24)は「穏やかな時間と空気が流れている。心が揺さぶられた」という。

 奥之院には、宗派を問わず死者がまつられている。多様性を認め受け入れる文化が高野山にはある。伝統を守る宗教都市でありながら、近未来の価値観を先取りする国際都市でもある。

(編集委員 野村浩子)

 大阪・難波駅から南海電鉄にのり急行で約2時間、特急で1時間半。極楽橋駅から高野山駅まではケーブルカーで5分。
 宿坊は旅館仕様のものから古い寺の趣を残すものまで様々。中庭やふすま絵、懐石料理も楽しみのひとつだ。勤行は基本的に参加自由。高野山宿坊組合・観光協会(0736・56・2616)に相談するといい。高野山ふもとの慈尊院から参拝登山する祈りの道「町石道」や、明治5年まで立ち入り禁止だった女性が、町外周を巡った「女人道」も当時がしのばれる。

[日本経済新聞夕刊2010年7月21日付]


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