夏になると注意したいのが食中毒。その原因となる細菌はジメジメ暑いと増殖しやすく、台所用品のこまめな除菌が欠かせない。記者(28)の場合は「汚れたな」と思ったら漂白する程度。どれくらい清潔に保てば菌が退治できるのか。調べてみた。

実験用に食材をつけた後に台ふきんを洗う
「いちばん清潔にしたい台所が、実は家の中でいちばん細菌に汚染されているんですよ」。開口一番、衝撃的なことを教えてくれたのは花王生活者研究センターの小島みゆきさん。家庭衛生の分野で博士号を取得した専門家で、実験の助言をしてもらおうと訪ねた。
食中毒菌の多くは生の食材を通じて家庭に持ち込まれ、それらに触れた手やまな板などに細菌が移動。栄養分や水分が豊富にあると細菌はどんどん増える。
台所で除菌すべきものを聞くと、「まな板、台ふきんなど『菌を広げる道具』を最優先に。食器洗い用スポンジも湿ったまま置いてあることが多く、細菌の繁殖に好条件」と小島さん。
細菌を付着させ処理後の数測定
小島さんの話を参考にして、まず、新品のまな板、台ふきん、食器洗い用スポンジを用意し、それらに生の食材から細菌を付着させることにした。その後台所用洗剤で洗浄、漂白剤につけるなど処理方法を変え、処理後の細菌数を測定する計画を立てた。
測定は衛生検査を手掛ける食品微生物センター(横浜市)に依頼。直径2センチほどの専用スタンプで測定対象の表面10センチ四方をこすり、そこに付いた細菌をシャーレに移して24時間培養する。細菌一つひとつが繁殖し、目に見える大きさの点になるので、その点を数えれば汚染の度合いが分かるという具合だ。
手順が決まり、実験の準備として最初に細菌の「感染源」を生のもやしとひき肉で作る。ボウルに入れもやしをつぶすようにこねると、ハンバーグのたねのようなペースト状になった。
このペーストを6枚のまな板に木べらで塗りつける。使い込んだ状態に近いように、まな板の表面にはキッチンばさみで細かい切り込みを入れてある。
そして放置すること12時間……。まな板がプーンと生臭い。普段であれば顔をしかめるところだが、今回は「細菌が増えてそうだな」と、何だか喜ばしい。
6枚のまな板は、食材を簡単にふき取る、洗剤でこすり洗いする、洗剤でこすり洗いの後に湯をかけたり、漂白剤やアルコール消毒スプレーをかけたりするなどの処理をして、それぞれ表面を検査用スタンプでこすった。これを食品微生物センターへ送り後日、結果が判明する段取りだ。
台ふきんには同じペーストをこすりつけて、水洗いをして漂白剤につけたり、熱湯に浸したりする方法で違いを調べた。それとは別に3日間使い続けた状態を再現した台ふきんを準備。卵、牛乳、ケチャップ、ドレッシングなど調理や食事中にこぼしそうな食材を台ふきんに1日2回吸い込ませて、その都度水洗いし、つり干ししたり、畳んだまま放置したりした。
スポンジはもやしとひき肉のペーストを溶いた水に12時間つけた後、もみ洗いだけでどの程度細菌が少なくなるか、などを調べた。
試した方法は、洗い方や干し方の違いなどで計30通り。それぞれの状態をこすり取ったスタンプを食品微生物センターに送り、数日後に訪ねて結果を聞いた。
抗菌タイプでも条件悪いと繁殖
「えっこんなに汚いんですか……」と記者が絶句したのは、3日間使用した状態の台ふきん。厚手の抗菌タイプのもので、乾きづらかったが、特に汚いようには見えなかった。
しかし、検出された大腸菌群は1179個。大腸菌群とは動物のふん便や土壌由来の細菌のことで、衛生管理の上で汚染を測る指標になる。同社の検査では100以上の細菌の検出で「重度の汚染」と判定するので、それを大幅に上回った。一方、薄手で抗菌でないものの細菌数はほんの少しだった。
「抗菌タイプのふきんは室内干しでは完全には乾かなかった」と話すと「細菌は水分と栄養分があると増殖するので、生乾きなど状況が悪いと、抗菌でも細菌が繁殖する。細菌対策の基本は乾燥」と、同センター技術課の鈴木伸幸さん。
畳んだまま放置した台ふきんは菌の数が数え切れない「∞」の判定が。見た目にもじめっとしていたので、予感はしていたのだが……。たまに台ふきんから変なにおいがしてぎょっとすることもある記者にとって、耳が痛い結果となった。

まな板はどうだったか。食器用洗剤で10往復こすり洗いして「普段より念入りに洗ったな」と思ったまな板にも多少の大腸菌群が検出されたほか、大腸菌群以外の雑菌も合わせた一般生菌数が「∞」に。一方、こすり洗いの後に漂白剤を吹き付ける、アルコール除菌スプレーをかけて乾燥させる、という2つの方法では細菌の検出はゼロ。有効な除菌方法だと確認できた。

今回の実験では、条件を同じにするため新品の台所用品を使った。そのためか、汚した直後から12時間程度で洗い流したスポンジと台ふきんでは水洗いでよく細菌が落ちる結果が出た。
ただし「新品の場合、繊維がほぐれていないため洗うだけで細菌が落ちる。だが、使い込むと繊維の内側に細菌が巣を作ってしまい、水洗いや台所用洗剤での洗浄だけでは落ちにくい」(小島さん)。使い込んだふきんは早めに交換するか、天日干しや漂白剤による消毒が必要だろう。
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記者のつぶやき
実験後、夕飯のためにブロッコリーをゆでた。この房の内側にも目に見えない細菌がたくさん生息しているのか……と気にしているうち、いつもより長い時間ゆでたら、しなしなのお浸しのようになってしまった。
生の食材や、食材を扱ったあとの台ふきん、調理台、まな板には細菌がいるものだが、しっかり加熱調理すれば大丈夫。あまり心配しすぎても料理ができなくなってしまうので、正しい知識を持ちつつ、ほどほどに付き合いたい。
(沢田範子)
[日経プラスワン2010年7月3日付]
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