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介護しても遺産なし? 嫁が相続で報われるには 遺言記入、養子縁組も視野に入れて

2010/6/21 7:00
ニュースソース
日本経済新聞 夕刊

 「介護などで夫の両親に尽くしたことは、相続の際に反映されるのだろうか」「親が自分の兄に財産の大半を相続させると言っている。釈然としない」――。そんな不安や疑問を持つ女性が増えているようだ。妻として、娘として、女性が知っておくべき相続に関する基本的な知識をまとめた。

相続セミナーには女性の姿も目立つ(三菱UFJ信託銀行主催のセミナー会場)

相続セミナーには女性の姿も目立つ(三菱UFJ信託銀行主催のセミナー会場)

 「私のしてきたことは何だったのか」。神奈川県の専業主婦Yさん(58)は虚脱感にさいなまれている。同居していた夫の父親は亡くなるまでの3年間、寝たきりだったうえに認知症が進行した。排せつや入浴の世話、夜中の叫び声。日常生活のほぼすべてが介護に費やされる日が続いた。

 義父が旅立った後の遺言には、遺産の大半は「長男である夫ではなく、離れて暮らしている次男と三男に相続させる」とあった。自分はもちろん、夫にさえあまり財産が残らない内容。夫には学生時代などに教育資金を多くかけたので、遺産はその分、兄弟に多く分けるとの趣旨だった。

 遺言の日付は5年前。「介護などで尽くした後に書き直してくれていたら、中身は違ったものになったはずなのに」(Yさん)。しかし義父の場合は認知症が進んだこともあって、以前の内容のまま。法的にはもうどうしようもない。

 Yさんのように「釈然としない結果」になるケースは珍しくない。なぜこうしたことが起き、防ぐ手立てはあるのか考えてみよう。

夫から親に一言

 「法定相続人」になれるのは原則、「配偶者」「子」「父母」「兄弟姉妹」の4種類。法定相続人であれば遺言がない場合は法定相続割合(図A)で遺産をもらえるが、子供の妻は介護でいくら苦労しても、そもそも相続の対象外というわけだ。

 もちろん女性だけが介護を担うわけではないが、現実には夫の仕事の忙しさなどで子供の妻の負担が重くなることが多い。相続に詳しい三菱UFJ信託銀行の灰谷健司財務コンサルタントは「大半の人は遺産を目当てに介護をしているわけではない」としながらも「終わった後で全く苦労を認めてもらえないと、むなしい気持ちになることもあるようだ」と解説する。何か手段はあるのだろうか。

 法定相続人でない子供の妻が遺産をもらうには、そうした内容を書き込んだ遺言があればいい。遺言は法定相続に優先するからだ。

 ただ夫の両親に「自分に財産を残す遺言を書いて」とは言いにくい。小野総合法律事務所の庄司克也弁護士は「本来は介護を受ける夫の親が、自主的に子供の妻にこうした気配りをしておくべきだ」と話す。

 両親がこうした対応をとってくれなさそうな場合、夫の方から両親に「考えておいてほしい」などと一言伝えておくのも選択肢。「残せる十分な財産がない場合でも、感謝の言葉を遺言に入れただけで子供の妻が報われた気持ちになることもある」(灰谷氏)

→次ページは「遺言でも侵害できない“遺留分”」

侵害できぬ遺留分

 遺言を書いてもらう場合も、遺言に異議を唱えたい場合も、知っておきたいのが「遺留分」という概念。

 法定相続人には遺言でも侵害できない最低限の権利が存在し、基本的には法定相続割合の半分のことが多い(遺留分の割合は図Aのカッコ内)。例えば配偶者と子供1人の場合は法定相続割合はともに2分の1ずつで、遺留分はその半分の4分の1ずつとなる。例外として父母だけの場合は遺留分は3分の1で、兄弟姉妹には遺留分はない。

 だから遺言で子供の相続割合をゼロにすると書かれていても、その子供による虐待など特別な理由がない場合は遺留分を主張できる。介護などで尽くしたことを反映した遺言を書いてもらう場合も、他の相続人の遺留分を侵害しない範囲にしておかないと、トラブルのもとになる。

 遺留分の考え方は、自分の親からの遺産分割でも大事。例えば長男などに財産の大半を相続させ、娘はほとんどもらえないような遺言が書かれることもある。実の親がそうした遺言にしていても、法律的には遺留分はもらえる権利がある。

 もし子供の妻としてではなく、自分の親に介護で尽くした場合はどうだろう。特別の寄与があったと認められれば「寄与分」という考え方で遺産を多くもらえる要因になることも知っておこう(仕組みは図B)。ただし子供の妻の場合は法定相続人ではないので、寄与分は原則発生しない。

いさかいには注意

 最近では介護に報いるためなどの理由で「子供の妻を養子縁組することも珍しくなくなってきた」(小野総合法律事務所の田端友貴弁護士)という。養子になれば法定相続人となるので、仮に遺言がなくても子供の妻も法定相続割合で分割を受けられる。

 様々な形で介護で尽くしたことが認められれば、うれしい話。ただ、夫の親の相続に口をはさむのは、争いのもとになりがちなことも覚えておきたい。

 「もっともらわないとおかしい」などと夫をあおることが、夫の兄弟間でのいさかいにつながることは多い。「結果的にそれを夫が不快に思い、夫婦仲そのものが壊れるケースもある」(庄司弁護士)そうだ。

(編集委員 田村正之)


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