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早くも値引き? 電気自動車、価格競争の舞台裏

2010/4/12 7:00
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 本格普及を前に、早くも電気自動車の価格競争が幕を開けた。

三菱自動車は電気自動車「i―MiEV(アイ・ミーブ)」の個人向け販売を始めた(1日、東京都目黒区)

三菱自動車は電気自動車「i―MiEV(アイ・ミーブ)」の個人向け販売を始めた(1日、東京都目黒区)

 12月に発売する日産自動車が3月30日、5人乗り電気自動車(EV)「リーフ」の価格を実質299万円(政府の補助金込みの価格)にすると発表。すると、昨年7月から先行発売している三菱自動車が同じ日の夕方に、「i―MiEV(アイ・ミーブ)」の価格を4月から、約62万円引き下げて398万円にすると発表した。政府の補助金を得ると284万円になり、日産を15万円下回る。

 ひと声、62万円の値引き――。一体何があったのか。

 3月30日午後。東京・港区三田の三菱自本社で臨時の取締役会が開かれた。最大のテーマは4月から始まる個人向けEV販売の値段設定だ。月末間際になったのは、法人向けより手ごろな価格に設定するため慎重に検討していただけではない。午前中に値段を発表する後発組で最大のライバル、日産の値段を見た上で決めるためだ。

 「299万円か。手ごわいな。もう少し下げてはどうでしょう」。関係者によれば、三菱自は当初補助金込みで290万円台の値段を想定していた。しかし、日産が300万円を割る値段に設定したのを見て再検討。5人乗りで普通車のリーフに比べて、アイ・ミーブが軽自動車サイズだということを考慮し、「15万円の価格差は必要」との判断に傾いたのだという。

 電気自動車の場合、最大のコストは高性能の電池にある。両社とも小型大容量のリチウムイオン電池を搭載しているが、アイ・ミーブの場合、電池コストはざっと240万円程度(制御システム費用込み)する。三菱自の場合、現行の価格で推移したとしても当面赤字で、「黒字化は年3万台を量販する2013年の見込み」(同社)だった。対抗上仕方ないとはいえ、急な値引きは痛手のはずだ。

 当面は提携する仏自動車大手、プジョーシトロエングループ(PSA)に今年秋から電気自動車をOEM(相手先ブランドによる生産)供給したり、車種を増やしたりするなど「地道に事業を拡大していくしかない」(三菱自幹部)と語る。

 対する日産。なぜここまで手ごろな価格にできたのか。

デモンストレーションで「リーフ」に充電する日産の志賀COO(3月30日、横浜市西区)

デモンストレーションで「リーフ」に充電する日産の志賀COO(3月30日、横浜市西区)

 「まずは電池のコストを徹底して抑えたこと。それと量産効果が大きいでしょうね」。志賀俊之最高執行責任者(COO)はこう強調する。当初の電池コストは三菱自を若干下回るぐらいの模様だが、日本のほか、米国や英国、ポルトガルで電池を量産。12年には世界で年50万台の生産能力に達する。日産と提携先の仏ルノーで共用することで一気に量産効果が出る、とのもくろみだ。

 日産の場合、電気自動車単体での事業損益は出していない。日産・ルノー連合で「5000億円の開発費用を投じている」(カルロス・ゴーン社長)との発言を考えれば、当面は先行投資の時期と言って間違いない。だが、「(排出物ゼロの)ゼロエミッション車で世界のリーダーになる」という目標を掲げる日産にとって、電気自動車でスタートダッシュを図るのは戦略上不可欠だったのだろう。

 登場前に訪れた価格競争を歓迎すべきは、消費者側だ。日産のリーフの場合、国の補助金を使うと299万円だが、神奈川県に住む人は別途、県の補助金が約35万円、横浜市に住む人は市の補助金が15万円強出る見込み。両方使えば、実質250万円程度とトヨタ自動車のハイブリッド車「プリウス」並みになる。

 売り方の工夫もある。日産の場合、消費者は初期費用として車両本体価格の240万円だけを払い、電池を月々クレジット販売する手法も用意した。電池代と充電する電気代を月々1万円程度とし、6年乗れば同クラスのガソリン車と同等の費用負担になるという。

 もともと電気自動車は走行時に二酸化炭素(CO2)を排出しないのが最大の売りだった。だが、一回の充電による走行距離が160キロメートルと制限があるのがネックで、街中などでの充電インフラの設置が必要とされる。ただ、もう一つのネックだった割高な価格の見直しが進めば、メーカーは苦しいとしても、電気自動車の普及の側面からすれば意外に早まる可能性もある。

 09年は、200万円を切る低価格ハイブリッド車「インサイト」を2月に投入したホンダに対抗し、トヨタがプリウスの新型車を値下げして5月に投入。「PI(プリウス・インサイト)戦争」と呼ばれ、日本でハイブリッドブームを引き起こした。勝敗は09年度に27万台を売ったトヨタに軍配が上がったが、ホンダも10万台弱を売り、他の車種の販売増にもつなげるなど収益にも貢献した。

 世界的に電気自動車の登場元年とされる2010年。「環境には良さそうだけど値段が…」と様子見を決め込んでいた消費者が、メーカーの価格競争を見て電気自動車に果たして食指を伸ばすのか。その行方は両社の受注状況となって、まもなく明らかになる。

(産業部 宮東治彦)


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