日本経済新聞社

小サイズに変更
中サイズに変更
大サイズに変更
印刷

江古田、学生街の変わらない風景

2010/7/27 7:00
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 昔ながらの街並み、近隣の人々が憩う緑地、しゃれた雑貨店、知る人ぞ知るレストランや和菓子店……。遠くに出かけなくても、身近なところに思わぬ発見があるもの。わずか10時間もあれば十分、ちょっと時間ができた時にあなたも出かけてみませんか。「THE NIKKEI MAGAZINE(日経マガジン)」(毎月第3日曜日発行、東京、神奈川、千葉、埼玉の宅配限定)で好評連載中の「10hours pleasure」で訪ねた東京都内や近郊の街を紹介します。

 池袋から西武池袋線で3つ。江古田駅周辺には、歩いて10分程度の距離に大学が3つある。

 北口を出て、最初に向かったのは武蔵野音楽大学。

 ドラマ化もされた漫画「のだめカンタービレ」の大学とそっくりな建物はベートーヴェンホール。パイプオルガンは定期検査中だった。ホールに響く言葉は日本語ではない。ドイツ製なので、技術者もドイツから招くのだそうだ。

楽器博物館に展示されるクララ・シューマン愛用のピアノ。クララの人生は何度も映画化されている

楽器博物館に展示されるクララ・シューマン愛用のピアノ。クララの人生は何度も映画化されている

 その裏にある楽器博物館は一般の人でも自由に見学ができる(平日のみ)。3階建ての建物には世界各国の楽器を展示している。100台を超えるピアノを置いた1階は圧巻だ。

 大学を出て少し歩いたところにレコード店「おと虫」があった。1979年に開店、現在の場所に移って6年になる。店内にはCDだけでなく5000枚のLPも並ぶ。学生街によく似合うが、店長の笹田良二さんによれば、最近は社会人や定年後の客のほうが多いとか。

 昼は音大生に教えてもらったスパゲティの店「まほうつかいのでし」へ。店名はフランスの作曲家ポール・デュカスの曲名からとった。「音大の隣だから」と店主の渡辺芳昭さん。看板には創業1881年とあるが、これはジョーク。1981年に開店し、お客さんの6割が音大生だという。「学生街は毎年新しい人が来るので新鮮ですよ」

 北口には日本大学芸術学部もある。駅を出て左が音大、右が日芸。ここを境に学生の服装が変わったように思えたのは気のせいか。

 現在、日芸は工事中。通りを挟んだ向かいに「アクアカラー」という写真店があった。堀内カラーというプロ御用達の現像所と提携していて、日芸の写真学科の学生たちが実習用のフィルムを持ってくる。店を切り盛りする水野京子さんによれば、最近は入学時にはフィルムカメラを持っていない学生も少なくない。だが授業で体験するうちに興味を持つ場合も多いらしい。

 3つ目の大学は、線路をはさんで反対側にある。

武蔵大学内を流れる濯川のほとりにはアヒルが

武蔵大学内を流れる濯川のほとりにはアヒルが

 武蔵大学は緑に囲まれた大学だ。中に入ると、さらに緑が多いことに驚いた。小川まで流れていて、ほとりにはアヒルが1羽。池袋から3駅とは思えない自然な空間が広がる。近所の人が散歩を楽しむ姿も見られるという。

 江古田は商店街の多い町でもある。少し歩いただけで異なる商店街の旗が現れる。中でも懐かしい雰囲気を残すのが「江古田いちば」。歴史は戦前までさかのぼるらしい。

川島屋の本田すみこさん。店頭には20種類以上のミソが並ぶ。歴史を感じさせるそろばんも現役

川島屋の本田すみこさん。店頭には20種類以上のミソが並ぶ。歴史を感じさせるそろばんも現役

 53年に開業したという「練馬新高屋商店」には総菜がずらり。「全部手作りだからね」と岩崎サカエさん。ピリ辛に味付けたこんにゃくを試食。白いご飯が食べたくなった。

 「味噌の川島屋」はやはり50年以上の歴史を持つ、ミソの専門店。本田すみこさんの説明を聞きながら20種類以上あるミソの中から何種類かを「ききミソ」した。味の違いに驚く。

トキで人気ナンバーワンのカツカレー。学生街らしくボリューム満点。「小盛りで」と頼むと50円引いてくれる

トキで人気ナンバーワンのカツカレー。学生街らしくボリューム満点。「小盛りで」と頼むと50円引いてくれる

 試食するうちにおなかがすいてきた。そこで駅近くの「トキ」へ。58年にオープンした、江古田で一番古い喫茶店だ。学生街らしいボリュームたっぷりの料理でも知られ、スパゲティの特大は1.3キロで980円。さすがに食べられないので店主の長野光延さんが「1番人気」と言うカツカレーを注文する。普通の店なら大盛でも不思議がない量で750円。周りのテーブルで若い男性たちが大盛の料理を平らげていく。見ていて気持ちがいい。

 帰りの電車で、若者であふれる学生街にいたのに、のぞいたのは長年続くお店がほとんどだと気が付いた。数年後にはこの街を離れていく学生たちと、変わらず彼ら彼女らを見守り続ける人たち。そのバランスが何とも心地よかった。[写真・文 大谷真幸]

(日経マガジンの掲載記事を基に再構成)


このページを閉じる

本サービスに関する知的財産権その他一切の権利は、日本経済新聞社またはその情報提供者に帰属します。また、本サービスに掲載の記事・写真等の無断複製・転載を禁じます。