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医師の間で広まる「洗いすぎない」スキンケア術

2014/2/2 6:30
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日本経済新聞 電子版

「汚れがひどくなければ、入浴時の洗浄剤は不要だ」と語るおかだ小児科医院の岡田清春氏

「汚れがひどくなければ、入浴時の洗浄剤は不要だ」と語るおかだ小児科医院の岡田清春氏

 入浴時には、髪はシャンプー、身体はせっけんやボディーソープなどの洗浄剤できれいに洗う──。そんな常識が、医師の間で変わりつつある。練馬光が丘病院(東京都練馬区)傷の治療センター科長の夏井睦氏などが発端となり、「入浴時の洗浄剤は必要最低限にすべき」というスキンケアの指導法が2007年ごろから広がり始めているのだ。

 その状況は小児診療でも同じ。冬の乾燥などによる皮膚トラブルを生じた子どもに対し、やはり洗浄剤は使うべきではないと指導する小児科医が増えている。

■ほとんどの汚れはお湯で落ちる

 「子どもの場合、汚れがひどくなければ、入浴時の洗浄剤は不要だ。皮膚トラブルの有無にかかわらず、洗浄剤の使用頻度をできるだけ減らすように指導している」。こう話すのは、おかだ小児科医院(滋賀県高島市)院長の岡田清春氏だ。

 洗浄剤が不要と指導する理由を岡田氏は、肌着を着けている部位の皮膚の汚れは汗や皮脂、角質のはく離成分(垢)など「水溶性のものがほとんどだから」と説明する。また、表皮には新陳代謝があり、角質の表面に非水溶性の汚れが固着しても、3~4日すればお湯ですすぐだけで落ちる。「身体に油汚れが付いたり、体臭が気になったときだけ洗浄剤を使えばよい」と話す。

 もっとも、すぐに汚れを落とさなければならない食事前の手洗いなどには「洗浄剤を使っていい」と岡田氏。ただし、その場合も十分な量の水で流すことを重視し、過度なこすり洗いをしないように指導しているという。

■皮脂が過剰に落ちてしまう

 ヒトの皮膚は通常、皮膚常在菌により皮脂が「パルミチン酸」や「ステアリン酸」に分解されて弱酸性に保たれている。このため、食中毒や皮膚感染症の原因となる黄色ブドウ球菌や化膿レンサ球菌は、そもそも増殖しにくい環境となっている。また、健常な皮膚は、アレルギーを誘発する大きな分子量の物質は透過させない構造となっている。これら皮膚の防御機構を最大限に発揮するには、皮膚常在菌を維持するとともに、皮膚を傷つけないようにする必要がある。

「お湯だけの洗浄は有効なスキンケアの方法だ」と話す大嶋皮膚科医院の西谷茂樹氏

「お湯だけの洗浄は有効なスキンケアの方法だ」と話す大嶋皮膚科医院の西谷茂樹氏

 だが、界面活性剤を用いて過剰に皮膚を洗ってしまうと、保湿に必要な皮脂や皮膚常在菌までもが落ちてしまう。さらには「肌が傷つき、アレルギーの誘発や細菌感染の原因となる可能性がある」と、大嶋皮膚科医院(兵庫県赤穂市)院長の西谷茂樹氏は説明する。

 米国皮膚科学会(AAD)でも、アトピー性皮膚炎の患者に対するスキンケアの方法を「洗浄剤は必要なときのみ使用する」としている。岡田氏はこれらのことから、「来院した患児や保護者に、入浴時は頭部からつま先まで全身をサッとお湯でくぐらすように指導している」と話す。

 入浴後は、保湿を目的に、皮膚症状がなくても白色ワセリンを塗布。湿疹やかゆみなど、皮膚トラブルがある患者には、必要に応じて外用ステロイドなどを塗布するよう指導している。

■お湯だけの洗浄で皮膚症状が改善

 岡田氏は自院を受診した、かゆみや湿疹などの皮膚症状を有する乳幼児162人に対してアンケート調査を実施。2013年4月、その結果を日本小児科医会会報に報告した。来院した患児の保護者には、洗浄剤をできるだけ使わず、汚れや臭いが気になるときにだけせっけんを用いて洗い、入浴後は白色ワセリンを用いて保湿するように指導。その後、3カ月以内に再度来院した際に皮膚の状態を保護者に確認した。

 その結果、50%が「軽快した」、23%が「変化なし」と回答。1%が「体の湿疹は改善したが頭が臭くなった」、1%が「湿疹は改善したが、頸部に発赤が現れた」と訴えた。残りの25%は記載がなかったり、再診がなく不明だった。

 この指導を開始してから1年以上経過した時点で、患児の保護者188人に入浴時の洗い方を改めて確認したところ、「洗浄剤をほとんど使ってない」と答えた保護者は90%、「洗浄剤を毎日ではないが使っている」のは8%、「毎日洗浄剤を使っている」のは2%だった。

 「最初は抵抗感を示していても、実践してもらうと、『皮膚症状が改善する上に子どもをお風呂に入れるのが楽になった』と答える保護者が多い」と岡田氏は言う。

 西谷氏も「洗浄剤を使っていて皮膚症状が生じた患者に、お湯だけの洗浄と白色ワセリンでの保湿をするように指導するだけで、治療効果が得られることがある」と話し、スキンケアの方法であることを強調する。

■重度の肌トラブルでは洗浄剤を使う

 一方で、アトピー性皮膚炎の患者など、重度の皮膚トラブルのある患者は、「洗浄剤をしっかりと泡立てて洗い、汚れを落としてから保湿薬を塗った方が、症状は早く改善する」。こう話すのは国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)生体防御系内科部アレルギー科医長の大矢幸弘氏だ。

「洗浄剤を用いて悪化因子を落とした方が皮膚症状は早く改善する」と説明する国立成育医療研究センターの大矢幸弘氏

「洗浄剤を用いて悪化因子を落とした方が皮膚症状は早く改善する」と説明する国立成育医療研究センターの大矢幸弘氏

 皮膚状態が正常な患者では、洗浄剤を使っても使わなくても大きな差はないかもしれない。だが、お湯だけの洗浄では、黄色ブドウ球菌や汗の成分に含まれる悪化因子を、アトピー性皮膚炎の患者に求められるレベルまで落とせない可能性がある。

 つまり、皮膚状態を悪化させる因子を残したまま薬剤を塗り込むことになり、「悪化因子を取り除いた方が治癒が早まるのは明らか」と大矢氏は語る。

 皮膚状態が悪い患児の場合、お湯や泡立てた洗浄剤を付けただけで痛がるケースもある。だが「入院して、2~3回適切な洗浄・保湿を実施すれば痛みはなくなる」という。

 痛みが生じるから洗わないという保護者もいるが、そのときの数回を我慢すればその後は皮膚症状が改善し、痛みなく洗えるようになる。洗うと痛い状態のままで何年も過ごすのと、「1~2日我慢して洗い、皮膚状態を整えて痛くない状態にすることのどちらが患児にとって良いかは自明だろう」と大矢氏は説明する。

 もっとも、洗浄剤を使う際には界面活性剤を残さないよう、丁寧にお湯で流すことが重要となる。洗浄剤をお湯で落ちやすくするためにも、しっかりと泡立てること。そして、流し残しのないように洗う順番と流す順番を決めること。

 具体的には頭頂部を起点に、原則として上から下に向かって洗い流すよう、患児や保護者へ指導しているという。脇などのくびれや皺のある部分は汚れや洗浄剤が残りやすいため、伸ばして洗い、流すように説明している。

 入浴後の保湿は、皮膚トラブルのある患者では、少し痒みがある程度であれば、ヒルドイドソフト軟膏(一般名ヘパリン類似物質軟膏)を処方する。よだれかぶれなどを生じている乳児や、ヒルドイドソフト軟膏を塗布した際に赤くなるような患者には白色ワセリンを、オムツかぶれには亜鉛華軟膏を処方しているという。また、症状に応じて必要があれば外用ステロイドを用いて皮膚状態を改善させている。

 もっとも、現時点では洗浄剤を使って洗う方がよいのか、それともお湯だけで身体を洗う方がよいのか、どの程度の頻度で洗浄剤を用いて洗えばよいのか──という疑問を明らかにした研究はまだない。比較試験を実施しようとしても、皮膚トラブルは自然に改善するケースが多く、明確なエビデンス(この治療法が良いと言える科学的根拠)を得るのは今後も難しいだろう。

■ボディーソープよりせっけんを

 「洗浄剤を使うならば、ボディーソープよりもせっけんを用いた方がよい」。入浴時に洗浄剤を使うべきか否かの考えは違っても、この点では専門家の意見は一致していた。大矢氏は「患者には防腐剤、香料、着色料の入っていない無添加せっけんを薦めている。だが、流し残しのないように入念にすすげば、無添加に強くこだわる必要はない」と言う。

写真1 せっけんとボディーソープの成分表示の例。せっけんには「石けん類」、ボディーソープには「全身洗浄料」などと記載されている。成分表示を見れば何が含まれているのか確認できる

写真1 せっけんとボディーソープの成分表示の例。せっけんには「石けん類」、ボディーソープには「全身洗浄料」などと記載されている。成分表示を見れば何が含まれているのか確認できる

 せっけんとは、弱アルカリ性で洗浄力を発揮する高級脂肪酸の塩(えん)の総称。単純な構造をしたアルカリ塩であるので、流し残しが少々あったとしても、皮膚が弱酸性の状態であるために中和され、界面活性剤としての効果は失われる。

 一方、合成界面活性剤を用いたボディーソープは「全身洗浄料」などと記される(写真1)。せっけんとは異なり、界面活性剤の効果が薄まりにくく、流し残しがあった場合は皮膚バリアを低下させる可能性がある。そのため、「界面活性剤と比較すると、天然の油脂でできており、構造が単純なせっけんの方が肌にとっては良いのではないか」と大矢氏は意見を述べる。

写真2 無添加、無香料のせっけんの一例

写真2 無添加、無香料のせっけんの一例

 また、弱酸性をアピールする洗浄剤も目立つが、「弱酸性だからといって、皮膚に影響を与えないのかどうかはまだ明らかではない」と岡田氏。患者に指導する際は、殺菌成分や香料が含まれておらず、「石けん」と記載のあるもの(写真2)を薦めているという。

(日経メディカル 加納亜子)

[日経メディカル Online 2014年1月14日掲載記事を基に再構成]


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