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景気回復のカギは女性の賃金が握っている
吉本佳生 数字で読み解く! 働き女子の経済のたしなみ

2013/5/10 6:30
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 安倍政権が企業経営者に賃上げを求め、実際にローソン、セブン&アイホールディングス、ファミリーマート、ニトリなどがボーナスや給料のアップを発表しました。では、読者の皆さんの賃金はこれから上がりそうですか?

 2012年まで、日本の労働者全体でみた賃金は下落傾向にありました。これを“賃金デフレ”といいます。ただし、男女別に見ると、男性の賃金は下がる一方で、近年の女性の賃金は少しずつですが上がってきました。

 それでも、日本の女性の賃金はまだまだ低すぎるといえます。日本は男女間の賃金格差がもともと大きいからです。OECD(経済協力開発機構)によると、先進国で男女間賃金格差が一番大きいのは韓国で、次が日本です。

 OECDの男女の賃金格差に関するデータをグラフ化。01年と11年につき、女性の賃金が男性よりどれだけ低いかを%で示している(フルタイム労働者の賃金の中央値で比較)。日本の男女の賃金格差は縮小傾向にあるが依然3割近く、先進国では韓国に次いで大きい

 OECDの男女の賃金格差に関するデータをグラフ化。01年と11年につき、女性の賃金が男性よりどれだけ低いかを%で示している(フルタイム労働者の賃金の中央値で比較)。日本の男女の賃金格差は縮小傾向にあるが依然3割近く、先進国では韓国に次いで大きい

 OECDのデータをグラフ化したのが右の図で、フルタイム労働者の賃金の中央値でみて、女性の賃金が男性に比べてどれだけ低いかを%で示しています。日本では、女性の賃金は男性より約3割(27%)低くなっています。欧米の先進国と比べると、相当に大きな賃金格差です。なお、子育て中の男女(父親と母親)の賃金格差をみると、日本の女性は男性より6割も低い賃金しか得ておらず、OECD加盟先進国中で最悪の数字です。これは、少子化の大きな原因のひとつになっています。

 日本の男女間賃金格差が大きいのは、日本では性別以外の属性での賃金格差も大きく、その相互作用が効いているからです。男女の賃金格差だけでなく、企業規模の大小による賃金格差、正社員とそれ以外(派遣・パート・バイトなど)の賃金格差、勤続年数による賃金格差が、国際的に見てとても大きいのです。

 そして、たとえば派遣やパートなどの非正規雇用の賃金が低いことが、非正規比率が高い女性の賃金を下げます。また、女性の勤続年数が結婚・出産・育児によって短くなりやすいことと、勤続年数による賃金格差の大きさの相乗作用で、男女間の賃金格差が大きくなっています。

 これらの属性による賃金格差は、日本経済にとって重大な問題のひとつです。

■景気の本格回復には女性の賃金アップが必要

 4月に出版した『日本の景気は賃金が決める』(講談社現代新書)で私は、景気を本格的に回復させるには、賃金格差を縮小させる形での賃金上昇が必要だと主張しています。「女性」「中小零細企業従業者」「非正規雇用者」「若者」のどれかの属性ゆえに賃金が相対的に低い人は、平均的にみて、増えた賃金を消費に回す比率が高い。景気回復に貢献する能力が高いのです。こうした性質には個人差がありますから、もしかすると皆さんの実感と異なるかもしれませんが、国全体の景気を考えるには、平均的な性質が大切です。

(イラスト:小迎裕美子)

(イラスト:小迎裕美子)

 そして平均的には、「男性で大企業の正社員として長年勤めてきた中高年」は、高い賃金のかなりの部分を貯蓄に回してしまうため、不況を深刻にしています。日本の景気回復のためには、賃金上昇が必要ですが、派遣やパート・バイトなどの非正規雇用者の時給が上がらないと、本格的な景気回復にはつながりません。

 今の日本では、男性の非正規雇用比率は約2割なのに対して、女性では5割を超えています。しかも、男女間賃金格差はまだまだ大きい。だから、日本女性の平均的な賃金の力強い上昇は、日本の景気回復にどうしても必要です。例えば、宿泊、飲食、卸・小売、生活関連、娯楽、教育・学習支援などのサービス業で働く女性の賃金アップが求められます。こうした業種の労働者は、賃金を消費に回す比率が高いからです。

 サービス業の賃金は、そのサービスへの効率的な需要増加によって上がります。都市部に人口が集積することが、そのためには必要であると、私は考えています。いずれにしても、日本では、女性の賃金が景気を決めるといえます。

吉本佳生(よしもと・よしお)
 関西大学会計専門職大学院特任教授、エコノミスト。専門は生活経済・金融経済。近著は『むしろ暴落しそうな金融商品を買え! 』(幻冬舎新書)、『「世界金融危機」のカラクリ』(PHPビジネス新書)。他に『スタバではグランデを買え! 』『金融広告を読め』『金融工学の悪魔』など著書多数

[日経WOMAN2013年6月号の記事を基に再構成]

日経WOMAN (日経ウーマン) 2013年 6月号 [雑誌]


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