日本経済新聞社

記事利用について
印刷 印刷

スマホ化するロボット、流通する制御ソフトで機能拡張

2014/1/22 7:00
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 パソコンやスマートフォン(スマホ)は、機種が違っても同じソフトウエアが使える場合が多い。だが、現状、ロボットではそうはいかない。ロボットごとに、あるいはメーカーごとに、OS(基本ソフト)やミドルウエア、プログラム言語が異なっており、しかも通常はそれらの仕様が非公開となっているためだ。

 だが、ロボットをもっと幅広く活用したいのであれば、パソコンのアプリケーション・ソフト(アプリ)やスマホのアプリのように、他者が開発したソフトを利用したり、ロボットの専門家でなくてもソフトを開発できたりといった環境がほしくなる。他者のソフトを流用できれば、本当に開発が必要な部分だけに集中できるし、ロボットの専門家以外がロボットのソフト開発に関われるようになれば、もっといろんなアイデアを取り込めるようになる。

 そこで、近年注目を集めているのが、ロボット用のオープンソースミドルウエア「ROS(Robot Operating System)」だ。米Willow Garageが開発し、Open Source Robotics Foundation(OSRF)が維持・管理しているミドルウエアである。

 ロボット用ミドルウエアとしては、産業技術総合研究所が主体となって開発した「OpenRTM」、日本ロボット工業会が提唱しORiN(Open Robot/Resource interface for the Network)協議会が維持・管理している「ORiN」、欧州の「Orocos」や「YARP」など、ROS以外にも多数ある。

 その中で、欧米を中心に急速にユーザーを獲得しているのが、このROSだ。川田工業やデンソーウェーブ、川崎重工業など日本のロボットメーカーの中にもROS対応を開始するところが出始めている(図1、図2)。

図1 ROS対応を図った川田工業のヒト型ロボット「NEXTAGE OPEN」。2014年1月末の出荷開始を目指す(写真:2013年11月6~9日開催の「2013国際ロボット展」にて撮影)

図1 ROS対応を図った川田工業のヒト型ロボット「NEXTAGE OPEN」。2014年1月末の出荷開始を目指す(写真:2013年11月6~9日開催の「2013国際ロボット展」にて撮影)

図2 デンソーウェーブのROS対応コントローラー(写真:2013年11月6~9日開催の「2013国際ロボット展」にて撮影)

図2 デンソーウェーブのROS対応コントローラー(写真:2013年11月6~9日開催の「2013国際ロボット展」にて撮影)


■「ROSで世界が一変した」

 では、なぜROSなのか。ROSを用いてロボットの研究を行っている東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻准教授の岡田慧氏は、その理由を次のように説明する。

 「ROSには小さいROSと大きいROSがある。前者は、ミドルウエアとしてのROSそのもの(通信ライブラリ、移動・操作・認識などのライブラリ群)。後者はそれに、ソフトの開発環境(ツール)と、作成したソフトを発表・流通させる場(コミュニティー)を加えたもの。ツールやコミュニティーが提供されている点が他のロボット用ミドルウエアにはないROSの最大の特徴であり、この点が評価されている」。

 実際、岡田氏は「ROSを使う前と使った後では世界が一変した」とその感想を述べている。例えば、同氏らの研究グループでは、7階の研究室から2階のサンドイッチ売り場までサンドイッチを買いに行くロボットを開発している。

 以前なら、研究室からエレベーターまでとエレベーターからサンドイッチ売り場までを、ロボットを自律移動させるソフトも開発しなければならなかった。ところが、ROSのコミュニティーには、自律移動のためのソフトがアップロードされている。従って、自律移動に関してはそのソフトをダウンロードするだけでほぼ事足りる。

 結果、エレベーターの認識やエレベーターにおける昇降の操作、サンドイッチ売り場の店員とのインタラクションといった本来の研究開発テーマに集中することができ、研究の効率が上がったという。

 しかも、開発したソフトをコミュニティーにアップロードしておけば、いろんな人に使ってもらえる。それにより、検証が進み、場合によっては他者が改良してくれる。そうしたコミュニティーの存在が好循環を生み、ロボット開発を加速させるのだ。ROSのコミュニティーは、言ってみればロボット版の「iTunes Store」だと、岡田氏はその意義深さを強調する。

■ROS対応に動く日本のロボット

 もちろん、ロボットがROSに対応していなければ、こうしたメリットを享受できない。だが、既に40種程度のロボットがROSに対応している。しかも、前述したように、日本のロボットでも対応品が登場してきている。

 その1つが、川田工業のヒト型ロボット「NEXTAGE」である。同社は、2013年11月6~9日に開催された「2013国際ロボット展」において、NEXTAGEのROS対応版である「NEXTAGE OPEN」を初公開した(図1)。

 NEXTAGE OPENでは、ロボットコントローラーの OS にリアルタイム OS「QNX」を採用し、ロボット用ミドルウエアとして「OpenRTM」を動作させる(図3)。それをROSに対応させるために、川田工業は別のコンピューターを用意し、OSとして「Linux」を、ロボット用ミドルウエアとしてROSを動作させ、モジュール間で通信させるようにした。

図3 ヒト型ロボット「NEXTAGE OPEN」におけるROS対応の概念図。ロボットコントローラーとは別のコンピューターを用意し、そこにLinuxとROSを搭載して、ロボットコントローラーとROS搭載コンピューターの間でモジュール間通信をさせる。これによりROSのアプリケーション・ソフト(ツールや他者が開発したモジュールソフトなど)を使えるようにした

図3 ヒト型ロボット「NEXTAGE OPEN」におけるROS対応の概念図。ロボットコントローラーとは別のコンピューターを用意し、そこにLinuxとROSを搭載して、ロボットコントローラーとROS搭載コンピューターの間でモジュール間通信をさせる。これによりROSのアプリケーション・ソフト(ツールや他者が開発したモジュールソフトなど)を使えるようにした

図4 ロボット動作生成ソフト「MoveIt!」

図4 ロボット動作生成ソフト「MoveIt!」

 例えば、NEXTAGE OPENをROSで動作させる場合、1つの方法として、ROS対応のツールとして提供されているロボット動作生成ソフト「MoveIt!」を使って、軌道上の主な点とその目標姿勢(各関節の角度)を指定する(図4)。ロボット側は、それらの点と目標姿勢の情報をドライバー間通信で受け取り、OpenRTM上で点と点の間を滑らかに補間するスムージングを実行。それに従うように、ロボットコントローラーでロボット本体を駆動する。

 ちなみに、ROS対応のツールとしては、学習のためのソフトやレーザーレンジセンサーのスキャン結果を3次元に視覚化するソフトなど、様々なものが提供されているという。

 川田工業によれば、NEXTAGE OPENは、2014年1月末の出荷開始を目指す。価格は、通常のNEXTAGEと比べて約20万円高い770万円程度を見込む。

■安全性確保する機能を装備

 デンソーウェーブの垂直多関節ロボット「VS-060」も、ROSへの対応を図ったロボットのひとつだ。同社も川田工業と同様に、別のコンピューターを用意し、そこにLinuxとROSを載せることで対応した(図5)。

図5 デンソーウェーブの垂直多関節ロボット「VS-060」におけるROS対応の概念図。別のコンピューターを追加し、そこにLinuxとROSを載せることで対応した

図5 デンソーウェーブの垂直多関節ロボット「VS-060」におけるROS対応の概念図。別のコンピューターを追加し、そこにLinuxとROSを載せることで対応した

 東大の岡田氏によれば、オープンソースのロボット用ミドルウエアやそのアプリケーション・ソフトを用いる場合の懸案事項の1つは、安全面について誰も責任を持てないことだ。

 デンソーウェーブのVS-060では、ROS対応部からロボットコントローラー側に不適切な信号が送られてきた場合、ロボットコントローラー側でその信号をはじくなど安全性を確保する機能を持たせているという。OSとロボット用ミドルウエアをそれぞれ2種類ずつ持つのは無駄なようでもあるが、これまでロボットメーカーごとに積み上げてきた信頼性の高いコントローラー(ミドルウエア、OS含む)を温存しているからこそ成せる業ともいえる。

■ROS導入を支援するサービスも

 岡田氏によれば、ROSがこれまで日本であまり広まらなかったのは、英語の情報がほとんどだったことと、日本にROS対応のロボットがなかったことが大きいという。しかし、これまで紹介してきたように、日本にもROS対応のロボットが登場し始めている。さらに、ROS導入に関わる諸問題の解決を支援するサービスを提供する動きも出てきている。

 そうしたサービスの提供を予定しているのが、東京オープンソースロボティクス協会である。同協会は、遅くとも2014年1月末から会員企業の募集を開始、それらの会員企業向けにROS導入に関わる諸問題の解決を支援するサービスの提供を始めるという。

 同協会が提供を予定しているサービスは、ロボットのエンドユーザー向けでは、(1)ROSのインストールサービス、(2)問い合わせから2営業日以内の回答保証のサービスと、実施したサポート内容を確認できる顧客別およびロボット別のWebポータルサイトの設置、(3)テレビ会議/リモートアクセス/現地出張によるサポートサービス――がある。

 「ROSはダウンロードしてインストールすれば使えるとされるが、実際にはそうした作業をどうやってやればいいのか難しい部分がある」(同協会代表理事の安田恒氏)。導入支援サービスを提供する理由は、まさにここにある。これらに加えて、自社のロボットをROSに対応させたいというロボットメーカーに対しては、それを支援するサービスの提供も計画しているという。

(日経テクノロジーオンライン 富岡恒憲)

[Tech-On!2013年11月19日付の記事を基に再構成]


本サービスに関する知的財産権その他一切の権利は、日本経済新聞社またはその情報提供者に帰属します。また、本サービスに掲載の記事・写真等の無断複製・転載を禁じます。