日本経済新聞社

記事利用について
印刷 印刷

インディゲーム革命前夜 支えるファンの金と知恵
ジャーナリスト 新 清士

2014/3/14 7:00
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 インディーズ(=インディ、独立系)ゲームの大規模イベント「ビットサミット」が今月7~9日、京都市の総合展示場「みやこめっせ」で開かれた。今年が2回目となるこのイベントには100以上のインディゲーム関連企業・団体が出展。海外からの参加者・来場者も多く、国際色が強いイベントとなった。インディゲーム開発者は小規模の事業者が多い。彼らの大きな悩みは、どのようにして開発中の資金を得るか、ゲームを多くのユーザーに知ってもらうかの2つだ。ユニークな手法でこうした課題の克服に挑むインディゲーム開発者を取材した。

京都市で開かれた「ビットサミット」会場の様子

京都市で開かれた「ビットサミット」会場の様子

■PS4向けインディゲームを発表

 インディゲームは数人から10人程度と小規模の企業やチームが開発するゲームを指す。開発に多額の資金を投じる大手ゲーム会社が手がけられないような、自由奔放な表現や内容を追求するケースが多い。学生や就職前の若いゲーム開発者から大手ゲーム会社を飛び出したベテランまで、インディゲーム開発者の顔ぶれは実に多彩だ。

 欧米では今、インディゲームが新興勢力として大きなブームになっている。大手メーカー製ではない、独立系企業が開発したゲームの中からヒット作が続々と生まれているのだ。これに対し、日本ではインディゲームの広がりはまだ小さい。家庭用ゲームの大手メーカー各社がこれまでインディゲームを積極的に扱ってこなかったため、販売ルートがほとんど確立していないのだ。

ビットサミットに出展したSCEのブース

ビットサミットに出展したSCEのブース

 こうしたなか、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)は新型の家庭用ゲーム機「プレイステーション(PS)4」の発売に合わせ、新作インディゲームを発表。ビットサミットにもブースを構えるなど、有力なインディゲーム取り込みに向けた動きを強めている。昨年9月開催のゲーム見本市「東京ゲームショウ2013」でインディゲームブースがにぎわうなど、日本でも少しずつ注目度が高まりつつある。

 開発者にとってインディゲームの魅力は、自分が面白いと思うものを自由に開発できることだろう。大手ゲーム開発会社ではそうはいかない。ゲームソフトの開発やプロモーションに大きな資金を投じるだけに、リスクの高い作品は避けようとする傾向が強いからだ。

■開発資金とプロモーションで苦労

 半面、インディゲーム開発者には開発資金やプロモーションの苦労が常につきまとう。ゲームの開発は数年に及ぶことも多い。個人事業主に近い彼らにとって、その間の生活を支える費用を捻出するのは容易ではない。また、大手と違って広告宣伝にかける費用の余裕はなく、マーケティングでも苦戦を強いられてしまう。自分が開発したゲームをユーザーに知ってもらうことが大変なのだ。

 ギユモ・マチュー氏は、そんなインディゲーム開発者の一人だ。かつてプログラマーとしてフランスのゲーム会社に在籍していたが、日本支社に赴任後、自分がつくりたいゲームを目指して独立。現在、宇宙をテーマにしたシューティングゲーム「ギャングズ・オブ・スペース」(パソコン用)を開発している。

ギユモ・マチュー氏。仲間と2人でゲーム開発に取り組む

ギユモ・マチュー氏。仲間と2人でゲーム開発に取り組む

 名古屋に住むマチュー氏は、東京に在住するもう一人の開発スタッフと常にインターネットを通じて連絡を取り合い、このゲームの開発に没頭している。貯金を取り崩して開発資金に充て、生活費を抑えながら暮らしているという。定職にはついておらず、すでに開発期間は2年に及ぶ。年内には完成させるという目標を持っているが、「いつ完成できるのかは分からない」(マチュー氏)

 同氏が開発中のギャングズ・オブ・スペースは、最大150人が同時に遊べるという技術的なハードルが高い意欲的なゲームだ。現時点で50人が遊ベる段階まで達しているが、完成までにはまだまだ克服すべき課題が多いという。

■インディゲーム開発環境の整備進む

 マチュー氏は数多くのプレーヤーを同時に遊ばせることができるサーバープログラムを主に開発している。ところが、同氏も仲間の開発スタッフも、ゲームに登場する宇宙船などを描くグラフィックスの開発は得意ではない。もし本格的なグラフィックスの制作を外部に委託すると数百万円の費用がかかり、資金的に余裕がないマチュー氏が開発を継続することは不可能に近いという。

「ギャング・オブ・スペース」の動画リンクページ。右側の映像が、マチュー氏らが配信しているライブストリーミング映像

「ギャング・オブ・スペース」の動画リンクページ。右側の映像が、マチュー氏らが配信しているライブストリーミング映像

 生活費を切り詰めながらとはいえ、マチュー氏がたった2人で非常に複雑なゲームを開発できるのは、インディゲーム向けの新しい開発環境の整備が進んできたことが大きい。その一つが、インターネット上でゲームのパーツの一部だけを購入できる「アセットストア」と呼ばれる市場の登場だ。そこではゲーム開発に使えるプログラムやグラフィックスデータが売買されている。例えば、マチュー氏はアセットストアを通じて宇宙船の画像データを5000~1万円程度で入手したという。こうしたサービスを活用して開発コストを圧縮しているのだ。

 マチュー氏はプロモーション面でもユニークな工夫を始めている。同氏が開発中のゲームの知名度はゼロに近い。そこで、自分たちがゲームを開発している姿を毎日、ストリーミングサイトを使ってリアルタイムで配信することにした。プログラミングやテストプレーする姿を何時間にもわたって中継し続けるなど、開発作業の映像をネット経由で公開することで知名度向上を狙っているのだ。

 すると、人数は少ないものの、これらの映像に定期的に関心を持つ人たちが現れ始めた。マチュー氏たちはそうした人たちに対し、開発中のゲームを限定公開し、自由に遊んでもらうようにした。マチュー氏は「10~50人のユーザーがいつも遊び続けてくれるようになった。ユーザーがどのように遊んでいるのかを見るのは本当に楽しい」と映像配信の効果を実感している。

 さらに「ゲームのユーザーインターフェースが的確なのか、敵キャラクターと争ううえでゲームバランスが正しいのかといったことを何時間も見ることが、ゲーム制作にとても参考になっている」と、映像でチェックしたことをゲーム開発に役立てている。

ウルフファイヤーゲームズのオーブリー・セラー氏

ウルフファイヤーゲームズのオーブリー・セラー氏

 マチュー氏によると、映像を見てくれる人たちにも変化が起きたという。「このゲームをつくっている人間がいる、ということが映像を通して伝わり、我々と彼らが友達になり、人間関係ができていった」。マチュー氏のゲームを自分の友達に薦めるなど、積極的に宣伝を手伝ってくれるようにもなったという。

■ユーザーの募金で開発資金集める

 ビットサミットには、自社のゲームを支援するユーザーのコミュニティーを有効に活用しながらゲームを開発しているインディゲーム開発者も出展していた。アクションゲーム「オーバーグロース」(パソコン用)を開発中の米ウルフファイヤーゲームズ(サンフランシスコ)だ。まだ開発途中だが、会場ではゲームの完成度の高さが来場者の注目を集めていた。

ハンブルバンドルのウェブページ。現在はアンドロイド用スマホゲームへの募金が求められている。募金をするとすでに販売されている4タイトルを、一定額を支払うと開発中の5タイトルを入手する権利を獲得できる

ハンブルバンドルのウェブページ。現在はアンドロイド用スマホゲームへの募金が求められている。募金をするとすでに販売されている4タイトルを、一定額を支払うと開発中の5タイトルを入手する権利を獲得できる

 同社アーティストのオーブリー・セラー氏によると、プログラマーと2人で開発しているが、開発期間はすでに6年に及ぶ。現在も完成のめどは立っておらず、「少なくとも来年まではかかるだろう」と話していた。大手メーカーの家庭用ゲームソフトの場合、通常は長くても3年余りで完成させるだけに、オーバーグロースの開発期間は驚くほど長い。そうした開発を可能にしているのが、ユーザーによる資金支援と予約販売だ。

 ウルフファイヤーゲームズは2010年、当時開発していたゲームの資金を得るため他のインディゲーム開発者と共同で「ハンブルバンドル」という仕組みをスタートした。これは、複数のインディーゲーム開発者がユーザーコミュニティーに働きかけ、募金の形でそれぞれのゲームの開発資金を集めるというものだ。

 ユーザーは募金額を任意に決めることができる。安い人は数ドル、高い人は数百ドルを支払う。2週間余りの設定期間中に集まった資金は、それぞれのインディゲーム開発者に公平に分配される。ユーザーは集まった平均額より高い募金を支払っていれば、将来的にそのゲームがリリースされた後、ゲームを無料でダウンロードできる権利を得られる仕組みになっている。

 10年に2回実施したハンブルバンドルでは、それぞれ5~6タイトルの資金を募集。数十万人から合計300万ドルもの募金に成功した。参加した各インディゲーム開発者は、いずれも開発初期の資金を得た。この資金により、ウルフファイヤーゲームズもインディゲーム開発者として安定的な財務基盤を築くことができた。

 ハンブルバンドルはその後、独立した企業となってサービスを継続している。12日現在行われているハンブルバンドルは、スマートフォン(スマホ)向けゲーム5タイトルの資金だ。2週間の募集期間のうち、残り7日間を残してすでに約12万口の応募があり、投資金額は46万ドルに達している。

ウルフファイヤーゲームズの更新情報を伝えるブログ。画面下方が開発途中のゲームの映像

ウルフファイヤーゲームズの更新情報を伝えるブログ。画面下方が開発途中のゲームの映像

■開発チームと議論できる掲示板

 ウルフファイヤーゲームズのもう一つの工夫が予約販売だ。同社は11年に30ドルで「オーバーグロース」の予約販売を始めた。購入したユーザーは開発途中のこのゲームをダウンロードして遊べる。セラー氏によると、予約販売で得た売上金は数百万ドルになるという。

 さらに、購入者には開発チームと直接議論できる掲示板が用意される。同社はこうしたユーザーコミュニティーの意見を取り入れながら開発を進める。「ゲームの品質は着実に高まっており、完成途中のゲームでも十分に遊べる内容に成長してきている」(セラー氏)

 ゲーム開発の進行状況は毎日、ブログを通じて告知する。動画サイト「ユーチューブ」にも変更点を説明する動画を次々にアップしており、すでに200本に達する。セラー氏は「ずっとゲームをつくり続けることができるのは、誰もがつくっていないユニークなゲームをつくりたいという気持ちがあるから。大きなコミュニティーが、自分を奮い立たせてくれる」と話す。

 同社のように、ユーザーが開発に関わるよう積極的に求めることでゲームを成長させるという事業モデルは、日本ではあまり知られておらず、ほとんど成立していない。日本のゲーム市場はこれまで、大手ゲーム機メーカーとライセンス契約を結ぶ必要のある家庭用ゲームが中心だった。そのため、パソコン中心に発展してきた欧米のように、開発途中のゲームソフトをユーザーに提供するというビジネスモデルを採用することは難しかったのだ。

■自由な発想で独創的なゲーム開発

 資金募集や予約販売といった海外のゲーム開発者のユニークな手法は今後、日本のインディゲーム開発者にも広がっていくと思われる。ビットサミットのような国際的イベントはそうしたきっかけになる。日本のインディゲーム開発者を成長させるための新しいビジネスモデルが生み出される可能性もあるだろう。

 大きな組織のしがらみにとらわれず、自由な発想と視点を生かして独創的で面白いゲームを生み出す。それこそがインディゲームの大きな魅力だ。ゲーム開発者とユーザーという「壁」を突き崩し、お互いの距離が近づき影響を与え合うことで、新しいタイプのゲームが次々に生まれる――。インディゲーム開発者たちの熱気があふれるビットサミットの会場を歩きながら、そんな新しい時代の息吹を感じた。

新清士(しん・きよし)
 1970年生まれ。慶応義塾大学商学部および環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心としたジャーナリストに。立命館大学映像学部非常勤講師も務める。グリーが設置した外部有識者が議論する「利用環境の向上に関するアドバイザリーボード」にもメンバーとして参加している。著書に電子書籍「ゲーム産業の興亡」 (アゴラ出版局)がある 。


本サービスに関する知的財産権その他一切の権利は、日本経済新聞社またはその情報提供者に帰属します。また、本サービスに掲載の記事・写真等の無断複製・転載を禁じます。