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勝ち組不在? 薄型テレビ市場の不思議
吉本佳生 数字で読み解く! 働き女子の経済のたしなみ

2013/6/7 7:00
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 アベノミクスによる円安で、輸出による利益が増加し、日本の製造業は息を吹き返したと報じられています。しかし、日本国内のテレビ販売では、日本を代表するメーカー各社が悪戦苦闘しています。11年のデータで国内シェア1位を誇るシャープ(シェア35.0%)も、2位のパナソニック(同23.5%)も、テレビ部門に足を引っ張られるかたちで経営が悪化しました。3位の東芝(同21.9%)でも、テレビ部門は赤字が続いています。

 薄型テレビの価格下落は激しく、『平成24年版経済財政白書』が日本で消費者物価の下落が続いてきた大きな要因のひとつに挙げていたほどです。日本を代表するメーカーの経営危機の主因となり、また、日本のデフレの象徴ともなっているテレビ事業ですが、データから問題点を探ってみましょう。

2002~2013年の日本国内における携帯電話、デジタルカメラ、ビデオカメラと薄型テレビの普及率をグラフ化。薄型テレビは05年以降、急速に普及率を伸ばし13年には96.4%に。同じく9割台の普及率の携帯電話と比べても、急ピッチで普及したことが分かる

2002~2013年の日本国内における携帯電話、デジタルカメラ、ビデオカメラと薄型テレビの普及率をグラフ化。薄型テレビは05年以降、急速に普及率を伸ばし13年には96.4%に。同じく9割台の普及率の携帯電話と比べても、急ピッチで普及したことが分かる

 今回は、薄型テレビを含む家電製品の普及率の推移に注目します(右グラフ)。薄型テレビの普及率は、2005年3月時点では11.5%でした。それが、8年後の2013年3月には96.4%に達し、日本のほとんどの世帯が保有するようになりました。いまや、携帯電話よりも普及率が高いのです。

 薄型テレビの場合、携帯電話やデジタルカメラの普及率上昇ペースと比べて、はるかに急ピッチで普及が進んだことが一目瞭然です。とはいえ、携帯電話やデジカメも順調に普及してきたことは、ビデオカメラの普及率のグラフと比べれば分かります。なかなか普及しない製品もたくさんあります。そうしたなかで、薄型テレビの普及ペースは飛び抜けていたといえます。

 しかも、テレビが存在しない状態からの普及ではなく、ほとんどの世帯が所有していたブラウン管テレビが、順調すぎるほど順調に、薄型テレビに置き換わったのです。複数のテレビを所有する世帯も多いのですが、ブラウン管テレビがある世帯は、ついに20%を下回りました。オリンピックやサッカーW杯、地デジ移行(アナログ停波)、エコポイント制度といった追い風もあり、薄型テレビの市場は急拡大してきました。

■市場は成長したのに、勝者も苦戦?

 ふつう、市場が順調に拡大すれば、上位のシェアを獲得したメーカーは利益を増やし、好業績を達成すると考えられます。しかし、シャープ、パナソニックといったメーカーは、国内の薄型テレビ市場が成長するなかでシェア上位を獲得したにもかかわらず、テレビ部門が業績悪化の主因となりました。地デジ移行などによる特需の反動で、最近は日本国内のテレビ販売が大幅に減り、海外では韓国メーカーなどに押されていることも事実です。しかし、長期で考えると、国内での市場規模がこれほど理想的な成長を遂げた製品が、シェア上位のメーカーの経営を危機に陥れるなんて、おかしな話です。

(この記事のイラスト:小迎裕美子)

(この記事のイラスト:小迎裕美子)

 もしかすると、「十分な成長が見込まれる製品市場で、高いシェアを獲得・維持できれば、大きな利益が稼げるはずだ」という、企業にとっての成長神話が、根本から崩れつつあるのかもしれません。

 不況が続く日本で、これほどの急ピッチで薄型テレビが普及したのは、価格がどんどん下落したからです。しかし、規模の経済性と呼ばれる性質が働き、大量に生産するほど1台当たりの製造コストは下がりますから、価格下落を武器に製品市場を拡大させるやり方は、家電メーカーの勝ちパターンだったはずです。

 安倍政権が「成長戦略」という言葉を強調していますが、薄型テレビを、成長戦略の成功事例と見ることもできそうです。それなのに、勝者となったはずのメーカーでさえ、成長の反動が大きすぎて苦戦しています。新製品の市場を拡大させて、そこで高いシェアを維持することができれば、自然に利益が稼げるという成長神話について、考え直すべきかもしれません。

吉本佳生(よしもと・よしお)
 関西大学会計専門職大学院特任教授、エコノミスト。専門は生活経済・金融経済。近著は『日本の景気は賃金が決める』(講談社現代新書)、『むしろ暴落しそうな金融商品を買え!』(幻冬舎新書)。他に『スタバではグランデを買え!』『金融広告を読め』『金融工学の悪魔』など著書多数。

[日経WOMAN2013年7月号の記事を基に再構成]

[参考] 日経WOMAN2013年7月号「年代別★知っておきたいお金ルール」では「20代、30代、40代…貯め上手さんのマネー&ライフ」「結婚・出産、病気、住まい、老後&介護 気になるお金の備え方」「『貯める金額』の目安付き、ライフスタイル別 女の一生にかかるお金」などを掲載している。

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