東京電力が原子力発電所事故の賠償責任を負い、その支援策によって「公的管理」に追い込まれた。「原発の賠償支援策」を巡る舞台裏を探った。
「このままでは、そう遠くない時期に資金ショートしてしまう」。東京電力の武井優・財務担当副社長のもとに社内の各部門から資金要請が殺到した。東電は自力で市場から資金調達できなくなっていた。5000億円弱の手元資金は夏にも底をつく恐れが出てきた。
東日本大震災で東電・福島第1原子力発電所が爆発事故を起こし、地震、津波の不安は原発へと広がった。だが東電は臨時取締役会さえ開けないほど混乱していた。3月末の社債償還期限に資金繰りの内情が市場に伝わったら、社債も株式も暴落する――。時間切れが迫る中、東電は異例の「持ち回り取締役会」で緊急融資の要請を決め、3月18日に各取引銀行に連絡した。
総額は2兆円。社債の償還に5000億円、火力発電の燃料調達に8000億円……。「2兆円あれば、社債が発行できなくても1年間は何とかしのげる」と考えた。
金融庁は金融機関に融資を実行するか確認した。三井住友銀行やみずほコーポレート銀行など東電の取引銀行は、東電の経営破綻のリスクを計る必要に迫られたが、即決した。「国はすぐには動けないから銀行が資金繰りを支えるしか手はない。政府からの事実上の要請だと受け止めた」と大手銀行首脳は明かす。
全国銀行協会の会長で東電のメーンバンクでもある三井住友銀行の奥正之頭取(当時)は3月25日、経済産業省の松永和夫次官と話し合う。松永次官は「我々も責任をしっかり負う。金融機関も支えてほしい」と語った。

奥正之氏
大手銀は「原発事故の賠償は、東電ではなく国が責任を負うはずだ」と考えていた。原子力損害賠償法(原賠法)第3条には、異常に巨大な天災による事故は電力会社の賠償責任にならないという「ただし書き」があったからだ。
融資に応じたのは三井住友銀行(6000億円)、みずほコーポレート銀行(5000億円)三菱東京UFJ銀行(3000億円)など8金融機関、計1兆8650億円。東電の信用力は大幅に低下していたが、融資の期間は3~10年で無担保、金利は事故前と同じに抑えることにした。
ところが3月末の融資実行直前に事態は急転する。「東電、国有化案が浮上」――。3月29日、大手新聞が報道。東電の責任問題が高まり、政府・与党は「原発事故の賠償責任は東電」との論に傾いた。「東電はつぶれるのか」。金融市場は激しく動揺した。
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