前作「河童(かっぱ)のクゥと夏休み」で河童の子供と少年の心の交流を描いた原恵一監督の新作アニメ。直木賞作家の森絵都の同名小説を原作に、天上界と下界の間をさまよう魂が、自殺した少年に乗り移って人生を見つめ直すというシリアスな物語を、現実味豊かに爽(さわ)やかに描いている。
主人公は、死後の世界にさまよう「ぼく」(声は冨沢風斗)の魂。天使の命令で自殺した中学3年生の真の体に入り込み、真は生き返る。真は両親と兄の4人暮らしだが、それぞれが問題を抱えている。内気な真は学校でも友達はなく、成績は悪いが、絵が得意で美術部に入っている。
ところが、真に乗り移った「ぼく」はあまり本人らしくない。真に付きまとう同級生の唱子(宮崎あおい)、真と友人になる同級生の早乙女(入江甚儀)、真が思いを寄せる後輩のひろか(南明奈)、そして両親や兄。やがて真と「ぼく」のズレに周囲が次第に動かされていく。
キャラクターが丁寧で際立ち、日常生活の描写が緻(ち)密(みつ)で素晴らしい。例えば主人公が早乙女に誘われて東急玉川線(玉電)の砧線跡を訪ね歩くシーン。当時の玉電の写真からアニメに変わるところでは、実写と見間違えるほどリアルで巧緻(こうち)な風景描写に驚かされる。
そんな情感豊かな日常風景の中で、「ぼく」は真の人間関係を変えていく。ひろかが自分の頭がおかしいと言えば、カラフルに生きることを諭す。だが、やがて本当に変わったのは真と周囲ではなく、「ぼく」自身であることがわかる。
日常生活に異世界が侵入して変化を生じるのは、前作と同様。物語は自殺をモチーフにしているため暗い印象を与えるが、思春期の子供たちの内面のドラマを巧みに描き出して、心を揺さぶる世界に仕上げた。2時間7分。
★★★★
(映画評論家 村山 匡一郎)
[日本経済新聞夕刊2010年8月27日付]
★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
宮崎あおい、入江甚儀、原恵一、南明奈、河童のクゥと夏休み
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