この頃、伊東潤作品の登場が多いなと思う向きもおられるだろうが、出来がよろしいのだから仕方がない。
これまでも山田風太郎『魔群の通過』や吉村昭『天狗(てんぐ)争乱』等、水戸天狗党を扱った作品に傑作が多い。しかしながら前者は恐るべき客観性で、後者は史伝的手法で書かれている。従って本書のように藤田小四郎はじめ作中人物の熱い血が、これほどまでに直截(ちょくせつ)的に描かれるのは、はじめてではあるまいか。それは取りも直さず、作者の幕末最大の悲劇の主役となってしまった男たちに寄せる熱い思いの反映でもあろう。
が、その一方で作者は、史実をきっちりと踏まえ、この争乱が〈平成〉の政治・経済・外交と二重写しになる事件であることを書くのを怠ってはいない。
そして本書の最大の読みどころは、実は天狗党という集団が個に解体される、すなわち、決して長々とではないが、党に加わった男たち一人一人の思いが開陳される刹那刹那の慟哭(どうこく)にある。
さらにラスト1ページの感動は、司馬遼太郎『燃えよ剣』のそれに迫るといっていい。現時点における作者の最高傑作といえよう。
★★★★★
(文芸評論家 縄田一男)
[日本経済新聞夕刊2012年2月15日付]
★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった
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