昨年に続き、今年も東京・ルテアトル銀座の正月興行は坂東玉三郎で開けた。前回は予定されていた公演が不祥事で中止となり急なリリーフだったが、大入りの成功を収めた。今回は最初から玉三郎特別公演の本城となった。玉三郎にはこのモダンな劇場がよく似合う。ロビーに繭玉を飾り、開幕前に獅子舞を舞わせるなど玉三郎ワールドへいざなう配慮も十分だ。
演目は大作「妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)」の「道行」から「御殿」まで。前回の「阿古屋」のような玉三郎の圧倒的な美に陶酔すれば済むものと違い、ドラマとしてがっしりと構築された演目ゆえ、配役にも実力のある演者をそろえることが不可欠だ。この点にも玉三郎のユニークな発想と見識が表れている。
玉三郎自身が演じるヒロインお三輪と拮抗する大役・鱶七(ふかしち)に尾上松緑を指名、その他の役にも市川笑三郎・猿弥といった猿之助門下の腕利きや、まだ19歳の尾上右近など歌舞伎の将来を担うべき若い人を大役に配した。一見、奇矯なようだが、実はそこに深い読みがあったことが舞台の進行とともに明らかとなる。用兵は見事に的中。皆、十分以上に期待に応える好演だが、中でも荷が重いかと見えた松緑が目を見張る大殊勲。一挙に同世代の先頭集団に躍り出た感がある。
(演劇評論家 上村 以和於)
[日本経済新聞朝刊2012年1月14日付]
坂東玉三郎、歌舞伎、レビュー