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悪人 追い詰められる弱者の悲しみ

2010/9/10 17:00
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 吉田修一の新聞連載中から評判だった同名小説を、著者と「フラガール」以来4年ぶりになる監督の李相日が脚色、映画化した。殺人を題材にしても、その罪を問うのではなく、弱者が追い詰められていく悲しみを色濃く漂わせている。

 老いた肉親の世話と過酷な肉体労働の日々。癒えることのない孤独の中で、若い娘の暴言にキレて殺してしまった土木作業員の清水祐一(妻夫木聡)は、紳士服量販店で黙々と働く馬込光代(深津絵里)との出会いの後で自首を決意した。だが、光代はそれを止め、2人の逃避行が九州の都市近郊を舞台に始まる。

 彼らの知らないところでは、祐一に殺された娘の父親(柄本明)が、娘の直接的な死の原因を作った身勝手で反省のない裕福な学生を憎んでいた。

 祐一を育てた祖母(樹木希林)は、インチキ商法に蓄えを巻き上げられ、さらに、祐一のせいでマスコミの餌食になった。

 ここにはまた別のタチの悪い連中の存在があり、彼らのエピソードを描くことで、あらためて問いかける。殺人者の祐一は本当に悪人なのか?

 心の飢えに苦しむ祐一を受け入れ、身体の奥の暗い炎を燃えあがらせる光代を突き放すように演じる深津が素晴らしい。その炎に導かれるように祐一が見せる思いがけない行動。深津はこの演技でモントリオール世界映画祭の最優秀女優賞に輝いた。ほとばしる愛と殺意の瞬間の衝撃には思わず息をのむ。

 出会い系サイトで結ばれた祐一と光代の刹那(せつな)の関係は、もう以前の孤独には戻りたくない、という互いの気持ちに押されて離れられないものになっていく。

 なのに、そこに生まれた愛は祐一の衝動的な行動で幕を下ろした。人の心の不可解さにただ溜息(ためいき)がでる。2時間19分。

★★★★

(映画評論家 渡辺 祥子)

[日本経済新聞夕刊2010年9月10日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…

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深津絵里、吉田修一、妻夫木聡、柄本明、樹木希林、モントリオール世界映画祭

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