2008年の谷崎潤一郎賞を受賞した、桐野夏生の小説の映画化である。
ストーリーのヒントとなったのは、ジョゼフ・フォン・スタンバーグ監督が、「アナタハン」(1953年)として映画化し、有名になった、太平洋戦争中から戦後にかけての実話だろう。
無人島で、一人の女性と多数の男性が、ともにサバイバルしてゆく情況(じょうきょう)で、何がおこるか。興味をひかれずにはいられないシチュエーションである。
この映画のヒロイン、清子(木村多江)は、結婚20周年を記念して、夫とヨットで航海に出、遭難した。
無人島の生活に適応できず役に立たない夫を、彼女は絶壁からつき落とす(あとで別の犯人をほのめかしたりもするが、映像のながれからして、これは清子のしわざとしか思えない)。
そして16人のわかい男たちが、島に漂着してくる。与那国島でのバイトが苛酷(かこく)すぎて船で脱出、遭難したフリーターたちだ。
全裸の男たちが、はげしい波にむかって走る、きわめて性的なイメージ・ショットで、官能的な音楽が高鳴り、タイトルが出る。
ドラマチックな展開を期待させる導入部である。
だが、いよいよ一人の女と16人の青年の日々がはじまると、映画は淡々としたトーンになってしまう。
清子の新しい夫になった男が、前夫と同じ崖(がけ)から転落死したり、中国人の青年たちが漂着したり、おこるできごとは原作と大体、同じなのだが、桐野夏生の文章にある毒気にみちたおもしろさに欠け、おとなしくまとまってしまっている。
おそらく、これは女性向けを意識した仕様なのだろう。木村多江に感情移入できれば、ヒロイン・ファンタジーとしてたのしめるのかも知れない。
監督は、篠崎誠。大友良英の音楽が印象にのこる。2時間9分。
★★
(映画評論家 宇田川 幸洋)
[日本経済新聞夕刊2010年8月27日付]
★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
ジョゼフ・フォン・スタンバーグ、谷崎潤一郎、桐野夏生、木村多江、無人島