目の見えない辻井伸行がピアノのクライバーン・コンクールで、昨年優勝した。テレビや新聞でも、その快挙は大きく報じられている。辻井のCDや、その人となりを伝える本も、街でよく見かけるようになった。
クライバーン・コンクールは、アメリカのフォート・ワース市でひらかれる。市をあげていとなまれる、四年に一度のもよおしである。この本は、それがいったいどういうコンクールであるのかを、おしえてくれる。フォート・ワースで昨年つぶさに見聞したうえで書かれた、ドキュメンタリーである。
話は、音楽だけにおわらない。フォート・ワースにとっての街おこしめいた側面へも、光をあてている。コンクールをささえる裏方、ボランティアやスポンサーの様子が、よくわかる。クラシック音楽をはぐくむアメリカ社会そのものが、とらえられている。
社会階層や人種のちがいといった問題からも、目はそむけない。ととのった広報体制が、ピアニストたちに負担をかける様子も、えがいている。そのうえで、このコンクールがめざす理想も、好意的にあらわす、バランスのとれた読み物だ。
★★★★
(風俗史家 井上章一)
[日本経済新聞夕刊2010年8月11日付]
★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった
ヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクール、辻井伸行