3D登場で拍車
日本声優事業社協議会の副理事長、羽佐間圭介さん(47)は「声優は人気の職業で、いまではたくさんいますよ」と説明した。羽佐間さんによると、50年ほど前の声優は200~300人にすぎず、主に米テレビドラマの吹き替えに携わった。「アニメブームなどを経て、何らかの形で声優の仕事をする人は6万人くらいに膨れたといわれます」
明日香はお気に入りのレオナルド・ディカプリオ主演のミステリー映画「シャッターアイランド」を1人でみに行った。字幕翻訳の第一人者、戸田奈津子さんの助けを借りて耳にすっと入るように工夫した「超日本語吹替版」が売り物だ。
「複雑な内容をよく理解できた。字幕だとこうはいかないかも」。明日香は近くに座っていた男子大学生(19)に「字幕版はみないの」と聞いてみた。学生は「字幕はすぐに次の内容にかわってしまうので、読んでいるうちに肝心の場面を見逃してしまうことがあります。映像とスジに集中したいんです」と答えた。
超吹替版を企画したキコリ(東京・港)の社長、木村徳永さん(43)は映画ファン310人への年初の調査をみせた。全体の4割が字幕を「読み切れない」と答えた。「15~19歳の半数近くが洋画をみる場合に吹き替えを主に選ぶと答えました。若い世代から吹き替え派が広がっています」
早稲田大学教授(日本語学)の笹原宏之さん(44)は「活字離れの影響で、文字を目で速く追うことに慣れていない人が増えたのかもしれません」と指摘した。文化庁が16歳以上に対して実施した調査によると、1カ月の読書量がゼロという回答は09年が46%で、02年より8ポイント上がった。
明日香が事務所に電話をかけると、玄輝が出た。「ご隠居が3D(3次元)映画に行ったら字幕も浮き上がったようにみえて読みにくかったそうだよ」。ウォルト・ディズニー・ジャパン(東京・目黒)の中村賢司さん(51)は「3D映画とともに吹き替えも増えるでしょう」と予測した。
事務所で報告を受けたご隠居は「幅広い客層を見込む大作ほど吹き替え版が増える傾向なのか。字幕版は消えてしまうのかな」と寂しそう。明日香が慰めた。「そんなことはないですよ。実は私、レオ様(ディカプリオ)の声が聞きたくて字幕版もみたんですから」
(編集委員 加賀谷和樹)
シネコンは多くのスクリーンを備える映画館だ。1990年代から郊外で先行して広まり、その後は都市部の駅前にも進出してきた。昔ながらの映画館は減っていった。日本映画製作者連盟(映連)はスクリーン数が5以上の映画館をシネコンとみなしており、いまでは全スクリーンの8割をシネコンが占める。
多くの映画関係者はシネコンの増加が吹き替え版の普及を促したと指摘する。同じ映画の字幕版とは別のスクリーンで、並行して吹き替え版を上映することが可能になった。観客は吹き替えの利点を知り「洋画は字幕で」という固定観念を変えた。
[日経プラスワン2010年6月19日付]
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