布美枝「そげですね」
「ゲゲゲの女房」を象徴するセリフは「そげですね」だ。ヒロインの布美枝(松下奈緒)はのっぽがコンプレックスで、結婚も出遅れる。それでも、縁あって貸本マンガ家の村井茂(向井理)と見合いで結ばれる。出会いから5日目の結婚。二人は夫婦で暮らすうちにゆっくりと互いを知り、互いを受け入れていく。
布美枝は、茂の言葉に「そげですね(そうですね)」とうなずいて、互いの絆は強まる。未婚アラフォーの私にとっては、そうあるべきだよねと納得させられつつ、だけどどこか耳が痛い。「そうですかぁ?」なんて、問いつめがちだ。とはいえ、自分一人ではどうすることもできないことを相手がふっとやわらげてくれる、そんな瞬間の「そげですね」には心癒(いや)される。出産間もなく育児に翻弄(ほんろう)されていた時のことだ。茂はキリキリする布美枝に向かってのどかに言う。「赤ん坊の顔見て、声聞いとったら、まぁ間違いないわ」。彼女もついそんな気がして、「そっか。そげですね」とうなずく。
そんな従順な布美枝もここぞという時にはビシッと決める。昭和30年代、二人は島根から出てきて、東京郊外の調布で暮らすようになる。売れない漫画家だから、家計は厳しくミルク代にも困る。なのに、茂は「連合艦隊を再建する」と、戦艦模型を買おうとする。「わが家に、そげな軍事予算はありません!」。彼女が初めて主婦らしい一言を発した瞬間だ。
テレビの映りが悪いと、茂がバンバン叩(たた)く。布美枝は「またそんなに乱暴して」と止めに入って、アンテナを調整する。ラジオの時も、「そげに叩いたら壊れます」と止めていた。ドラマも終盤へとさしかかり、以前ほど「そげですね」のセリフは聞かれなくなっている。互いの役割分担のようなものができてきたからだろう。
家族のかたちがゆっくりと変わっていく。そんな様子が何気ないセリフにあらわれて気持ちいい。
(日本大学教授 中町綾子)
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筆者紹介

中町綾子(なかまち・あやこ) 日本大学芸術学部放送学科教授。テレビドラマ評論家。専門はテレビドラマの表現分析。1971年石川県生まれ。日大芸術学部卒、同大大学院芸術学研究科修士課程修了。著書に「ニッポンのテレビドラマ 21の名セリフ」(弘文堂)。
松下奈緒、向井理、NHK、ゲゲゲの女房
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