(2010年8月12日 Forbes.com)
アンドリュー・メイソン氏はネットショップでのバーゲンハンティングに人々を熱くのめり込ませるにはどうすればいいかを考えた。その結果、一夜にして急成長した米グルーポン本社(シカゴ)のサクセスストーリーが生まれた。
フェースブックを立ち上げる前、創業者のマーク・ザッカーバーグ氏はまがりなりにもハーバード大学でコンピューターコードを多少とも書いたことがあった。さて、穏やかで細身のアンドリュー・メイソン氏(29)はと言えばノースウエスタン大学で音楽を専攻した人物だが、氏はウェブ史上最速の成長記録を持つ企業を作り上げた。グルーポンはかつてのドットコムブームかくあるべしという姿をそのまま体現する企業だ。すなわち、多額の売り上げ、労せずして得られる利益、実店舗を持つ小売店とオンライン顧客を結ぶ緊密な関係である。
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グルーポンは「グループ」と「クーポン」を組み合わせた名前で、ネット上の消費者に大幅に値下げした製品やサービスを提供する。「今すぐ申し込みを。募集締め切りまであとわずか」と宣伝文句はうたう。これはおなじみの誘い文句だが、これまでにない新たな要素が組み込まれている。「同じ日に同じ商品を購入する人が一定数に達した場合にのみ、売買が成立します」というわけだ。
クーポンの発行者は、博物館かもしれないし、ヨガ・スタジオやアイスクリーム店かもしれない。そのような発行者にとってのメリットは何か。消費者への認知である。結果として得られる収益は、クーポンの条件通り割引した後にグルーポンと分け合う(通常は半々の山分け)ため、売上高が増加してもかろうじて収支トントン程度になる可能性がある。だが今や、その店をひいきにしようなどと考えたこともない人々がたくさん新規顧客になっている。グルーポンはグーグルやフェースブックから購入した広告スペースや、1300万の登録会員の口コミを通じ、オファーの内容を消費者の目に触れさせるのである。
過去に急速な成長を遂げた多くのドットコム企業と異なり、グルーポンが展開しているのはリアルビジネスだ。同社の株式公開の引受主幹事の座を狙うモルガン・スタンレーがまとめたリポートによると、グルーポンの今年の年商は5億ドルを超える勢いだ。イーベイ、アマゾン・ドット・コム、ヤフー、AOL、グーグルといったネット・サービス大手でも、これほどのスピードでここまで事業規模が拡大した企業はない。今年4月にようやく創立17カ月を迎えたグルーポンは1億3500万ドルの資本を調達したが、そのときの同社の評価額は13億5000万ドルに達していた。この資本の大部分を出資したのは、フェースブックやズィンガにも出資するなど積極的な活動で知られるモスクワの投資ファンドデジタル・スカイ・テクノロジーズである(メイソン氏は自ら保有する株式の割合について「50%未満」と語るが、具体的に公表することはないだろう)。グルーポンより速く企業価値評価額が10億ドルを超えたのは2005年創立のユーチューブ(現在はグーグル傘下)だけだが、同社はいまだに黒字を達成していない。一方、グルーポンは設立後わずか7カ月で単月黒字化を果たした。
メイソン氏のビジネスモデルによって、企業、特にマーケティング予算の限られた小型企業が簡単に売り上げを伸ばす方法が変わりつつある。5月、グルーポンはニューヨークのタイムズスクエアで行われたツタンカーメン展のチケットを、通常価格の半額をやや上回る1枚18ドルで6561枚売り上げた。この募集では主催者側の限界費用は実質的にゼロで、収益は12万ドルに上った。グルーポンは1日の努力でその約半分を手に入れた。これまでに最も人気のあった商品はシカゴの建築物見物ボートツアーのチケットで、通常25ドルのところ12ドルで販売された。5月にグルーポンは8時間で1万9822枚を売上げ、ツアー主催者と23万8000ドルを分け合った。
グルーポンは全米88都市に加え、トルコやチリなど22カ国でビジネスを展開する。そしていま、潤沢な資金を持つものも含めて何百というライバル企業が出現しつつある。ニューヨークからブラジルまで覇権争いが広がっているため、メイソン氏は250人の販売スタッフと70人のライターで武装する。ライターの多くは、募集内容にふさわしいウイットに富む宣伝文句を作り出すため、シカゴで活動するインプロバイザー(即興演技者)の中から引き抜いた。メイソン氏は言う。「アマゾンが通常の消費財でやったことを、我々は地域向けの電子商取引でやりたい」。
メイソン氏はシリコンバレーのオタクではない。育ったのはピッツバーグ郊外で、父はダイヤモンドの行商人、母は写真家として働いていた。氏が情熱を傾けたのはコンピューターではなく音楽で、6歳のときにピアノのレッスンを始めた。ノースウエスタン大学では、パンクロックとビートルズとキャット・スティーブンスを足して3つに割ったと自ら表現するロックバンドを率いた。「25歳やそこらまで、自分はロック・ミュージシャンになるのだと思っていました。でもそれはスターになるということではなく、カウンター・カルチャーの一部になるという意味でした」と氏は言う。
メイソン氏の起業家的本能はそのときすでに呼び起こされていた。15歳のときには、毎週土曜日の朝、パン屋で買った作りたてのベーグルを近所の家の玄関先に配達した(後に、コストコで買ったキャンディバーの方がよく売れるとわかったのだが)。大学卒業後、メイソン氏はコンピューター・プログラミングを独学で学び、企業の印刷物を最低入札者に外注する事業を営むシカゴのインナー・ワーキングス社でプログラミングの仕事を得た。そこで氏は、人気記事の裏にある著者の隠された意図を明らかにすることによって、イラク戦争やヘルスケアなどの難しい問題を検討するウェブサイトを思いついた。2006年にはシカゴ大学の支援を得た。修士課程で公共政策を学ぶための奨学金が認められたのである。数カ月後、メイソン氏のプランはインナー・ワーキングス社の設立者エリック・レフコフスキ氏の知るところとなり、同氏は「隠された意図」サイトの立ち上げにエンジェル資金100万ドルの出資を申し出た。
このアイデアはほどなく、様々な目的を達成するために人々からの支援を集めることができるオンライン・プラットフォーム「ザポイント・ドット・コム(ThePoint.com)」に姿を変えた。同サイトは2007年11月に開設され、ユーザーたちのユーモラスな運動が全国紙の関心を惹きつけた。あるユーザーは、アフリカのエイズ問題解決のために数百万ドルを寄付するという趣旨で――ただしロックバンドU2のボノ氏が公の場から身を引くなら、という条件付きで――1000人の賛同者を集めた。シカゴを一年中暖かくするために町の上にドームをかぶせるという提案で数千人の賛同者を集めたユーザーもいた。ThePointは知名度が上がったおかげで、NEAなどシリコンバレーの有力ベンチャーキャピタル(VC)から480万ドルの資金を調達できた。「会社が4億ドル企業になり、自ら多額の金を手にするのも時間の問題だと思っていました」とメイソン氏はシニカルに言う。
だがThePointには広告収入で会社を存続できるほどの注目は集まらなかった。メイソン氏の片腕アーロン・ウィズ氏は、グーグルで頻繁に入力される検索ワードのうち例えば「マリフアナ合法化」といった社会問題に関連したワードに支払いを行うことを提案した。アクセスは増えたが、意図したものとは違っていた。ラップの2人組「インセイン・クラウン・ポス」の俗悪なファンたちが、ThePointを自分たちのネット上の活動の場にしてしまったのだ。2008年には損失が膨れ上がり、メイソン氏は友人であるウィズ氏の解雇を言い渡すため、重い足を引きずって彼の家へ向かった。「私が合理的な人間であれば、そこでやめていたでしょう」とメイソン氏は言う。
もっとも、1つ前途有望な点があった。それは、ThePointで最も効果を上げた募集の一部は消費者を団結させ、購買力の獲得につながったということだ。メイソン氏は、毎日様々な出品者の様々なセールを読者に紹介するブログを売り物にし始めた。氏に投資していた人々は、失うものはほとんどないと考え、その戦略を推進するよう勧めた。こうしてグルーポン(当時の名はGetyourgroupon.com)が誕生したのである。
グルーポン、ネット企業、ビジネスモデル
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