発売から30年間、人気を維持し続けるアニメ「機動戦士ガンダム」のプラモデル、通称「ガンプラ」。技術革新だけでなく、映像などのソフトビジネスとの相乗効果がヒットを支える。「長寿プラモの研究」の2回目は需要のすそ野を開拓するビジネスモデルの実体を見る。
カフェや映像と連携し訴求
ある平日の午後6時過ぎ、東京・秋葉原。カフェの前に行列ができている。30分ほど並んで店内へ。カウンターでメニューを眺める。気恥ずかしさを抑えて注文。「『赤い彗星(すいせい)』と『セイラのくちびる』お願いします」――。
バンダイが4月下旬にオープンした「ガンダムカフェ」。アニメ「機動戦士ガンダム」にちなんだ名前のついた食べ物、飲み物が60種類以上メニューに並ぶ。頼んだ「赤い彗星」はトマトソース味のパスタ、「セイラのくちびる」はいちごのリキュールやヨーグルトなどのカクテル。価格はともに税込み790円だ。
店内はガンダム一色。壁際には歴代のガンダムのプラモデル(通称「ガンプラ」)が飾られ、接客の女性はアニメに出てくる「地球連邦軍」のコスチュームでほほ笑みかけてくる。前回紹介した伝説のガンプラマン、村松正敏氏が設計した初代プラモデルをモチーフにした「ガンプラ焼」などの土産物もある。
かなり濃い演出だが、意外にも客層に偏りはない。店内を見渡すと、スーツにネクタイのサラリーマン、カップル、OLのグループ、外国人と多彩だ。休日には親子連れの姿も目立つという。連日、行列ができる繁盛ぶりなら、年間2億円という売り上げ目標も十分クリアできそうだ。
「熱心なファンだけでなく、ガンダムの“ガ”の字くらいしか知らない人たちも来てくれる」。ガンダムカフェを企画したバンダイ戦略プロジェクトの眞洋介マネージャーは話す。年代や性別に縛られず、さまざまな顧客をガンダムに引き寄せるにはどうしたらいいか。「気軽に立ち寄れるカフェという業態なら間口が広いと考えた。狙い通り」。眞氏は手応えを感じている。
ガンダムプロジェクト――。バンダイナムコグループはおよそ3カ月に1回、そう名付けた会議を開く。議長はCGO(チーフ・ガンダム・オフィサー)を務めるバンダイの上野和典社長。ガンダム事業を手掛けるグループ各社の担当者約30人が集まり、それぞれが進めるビジネスの情報を共有する。商品投入のタイミングをそろえるなど、相乗効果を高めるための知恵を出し合う。
ガンプラが30年にわたって売れ続けてきた理由は、プラモデルとしての技術革新だけでは説明しきれない。関連する商品やサービスを通じ、グループを挙げてガンダムブランドの浸透に励んできたことを見逃せない。なかでも顧客への訴求力が高い映像作品に期待される役割は大きい。
慣例破り、ソフトを一斉投入
バンダイナムコホールディングスが7日に発表した2009年度決算は、2月の予想に比べて営業利益が88%増え、経常利益は3.8倍と、悪くない内容だった。新作アニメ「機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)」のヒットが収益の向上に一役買った。
約1時間の作品であるユニコーンの公開で、バンダイナムコグループは「常識破り」の作戦をとった。劇場での上映、パッケージソフトの販売、ネット配信を同時にスタートさせたのだ。2月20日、松竹は東名阪などの5つの映画館(のちに3館を追加)で2週間限りの上映を始め、劇場内ではパッケージソフトを売った。ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)もこの日、「プレイステーションストア」を通じて配信に乗り出した。
業界では、劇場公開の3~6カ月後にパッケージソフトを発売するなど、分野ごとに作品投入の時期をずらすのが長年の慣習だ。しかし、劇場で感動したらすぐにパッケージソフトを手に入れたいのが人情ではないか。自宅で配信の映像を見て面白いと思えば、すぐ映画館の大きなスクリーンでも見てみたいと思うのではないか。劇場、パッケージソフト、配信の広告が一斉に流れれば、宣伝効果は高いはず――。映画離れ、パッケージソフト不振が叫ばれるなか、そんな発想から実験的な試みに踏み切った。
「既成概念を崩すときは、最も強力なコンテンツでやらなければ意味がない。それはガンダムだった」。バンダイナムコグループの映像音楽コンテンツ会社サンライズの常務で、同時公開の仕掛け人である宮河恭夫氏は語る。
結果は「吉」と出た。映画館は8館合計で3万7000人を動員。鑑賞した人の2割ほどがその場でパッケージソフトを買ったもようだ。その勢いを保ったまま、3月に一般発売されると、1週目にオリコンチャートの1位に。4月末までの累計販売は16万枚に達した。プレイステーションストアでの配信数も歴代1位を記録。SCEの調べでは、ユニコーンを見るために、久しぶりにゲーム機を動かしたという顧客がかなりいた。
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