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東京五輪と食品認証 農水産物輸出拡大の好機に
志田富雄編集委員に聞く

2016/3/7 10:00
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■食品へのこだわり、ロンドン大会から

小谷:東京五輪に向けた食品認証の問題について、日本経済新聞の志田富雄編集委員に聞きます。五輪と食品の認証にはどのような関係があるのでしょうか。

小谷真生子メインキャスター

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志田富雄編集委員(2016年2月29日放送)

志田富雄編集委員(2016年2月29日放送)


 「五輪が食品にこだわるようになったのは、2012年のロンドン大会からです。『競技者のため、おいしく、健康的で環境に優しい大会』というビジョンを打ち出して、選手村や報道センターに提供する食品に厳格な認証基準を導入しました」

 「このロンドン大会から食品認証に対する考えが広まり、今年のリオデジャネイロ大会にもその意思が引き継がれます。東京五輪の場合も、どのような基準を設けるかという具体的な議論が1月に始まりました。五輪の組織委員会は年内にも基準を示す見通しとなっています」

 「日本政府は、日本の農水産物を世界に流通させることを成長戦略の一つとしています。東京五輪を機に食品認証の基準を国内に浸透させれば、輸出などの後押しにもつながると思います」

■持続可能性を重視 環境や労働にも配慮

小谷:世界にも認められる食品認証の基準を設けるということですね。具体的にはどのような基準になるのでしょうか。

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 「大きなキーワードを一つ挙げるとすると、『持続可能性』です。食品そのものの安全確保は当たり前の話ですが、生産過程で自然環境に負荷をかけない、あるいは、現場の労働者に過重な労働をさせないという労働環境も考え、将来にわたって様々な側面から持続可能であることを重視しています」

 「実際にロンドン五輪で採用され、東京五輪でも採用される可能性のある食品認証を例にお話ししたいと思います。農産物に関して一つ例を挙げると、『グローバルGAP』という国際認証が非常に広く浸透しています」

 「GAPの目的の一つ目は『食品の安全性』です。例えば生産過程で残留農薬が残るリスクを排除するリスク管理が挙げられます。これは残留農薬そのものの基準ではありません。残留農薬を排除するには、それぞれの生産過程でどういうステップを踏めばいいのか、チェック項目を設けて厳しく検査していくということです」

GAPの目的
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GAPの目的

 「二つ目は『環境の保全』です。これも農薬を例に挙げますと、農薬による水質汚染をきちんと防いでいるか、リスクを管理しているか、というチェック項目があります」

 「三つ目は『労働安全の確保』で、過重な労働などを防ぐためのチェック項目が設けられています。日本においてはそれほど大きな問題ではないと思われがちですが、そんなことはありません。例えば日本には外国人の技能実習生の問題があります。たびたび国連などから、過重な労働をさせている、低賃金で働かせている、とった点が非常に問題視されています。東京五輪でGAPが導入された場合、外国人技能実習生の労働環境がもう一度厳しくチェックされる可能性が十分考えられます」

小谷:このグローバルGAPは、主にヨーロッパで導入されているのですか。

 「ヨーロッパが発端ですが、現在は世界の110か国以上に普及しています」

■通じない国産神話 国際認証の取得が重要に

小谷:GAPの対象は農作物でしたが、それ以外の食品にも基準はありますか。

 「水産物にも国際基準がありまして、天然漁業の認証と養殖漁業の認証があります。基本的には魚を取りすぎない、水産資源を枯渇させない、あるいは生態系の構造・多様性を変えない、というような自然保護を重視しているのがポイントです」

小谷:この水産物に対する基準もヨーロッパ中心ですか。

 「そうですね。天然漁業は本部がロンドン、養殖漁業は本部がオランダにあり、ヨーロッパを中心に世界各国に普及している制度です」

 「日本の食品については、我々消費者の間でも、日本の食品ならば安全で問題はない、という国産神話が非常に強いのですが、実はこれが通じるのは日本国内だけです。海外では、安全性を実際に証明するための認証を取得しなければなりません。今後は国際認証への対応が非常に重要になってくると思います」

小谷:日本の生産者は、グローバルGAPや天然漁業・養殖漁業といった国際的な認証に対応できているのでしょうか。

 「グローバルGAPの認証は世界で10万件以上、取得されています。ところが日本で認証を取得しているのは約200件にすぎません。水産物の認証に至っては、天然漁業は北海道のホタテ漁と京都のアカガレイ漁の2件だけです。養殖漁業に関してはチャレンジしている所はありますが、今のところ実績がない、というのが実情です」

■生産者に重い負担 東京五輪は挑戦の好機

小谷:日本は国際的な水準に至っていないということですね。

 「まだ国際認証そのものが、あまり認識されていません。水産物の認証については、審査にかなりの期間と費用がかかるため、チャレンジに二の足を踏んでしまう、という面もあります。実際に認証所得には1~2年、数百万円から1000万円かかると言われています。これらの費用は実際にチェックする認証機関に対して、漁業者が支払うことになります」

小谷:ずいぶんと負担は重いですね。場合によっては五輪に間に合うかもしれませんが、これだけのコストをかけて認証を取得するだけの価値はあるのでしょうか。

 「全ての産地が国際認証に対応する必要はないと思いますが、少なくともこういった考えを国内で広めて、国際認証にチャレンジして実際に取得する生産者が増えれば、日本の農業・漁業の国際競争力を高めるステップにもなります。東京五輪は、その一つの大きな機会になると思います」

小谷:実際、東京五輪ではどの認証が採用されることになるのでしょうか。まったく新しい基準が採用される可能性はありますか。

 「グローバルGAPが一つの基準になる可能性はあります。日本でも独自の『JGAP』という認証が育ちつつあります。これが国際的に認められる制度になってくれば、JGAPが基準に採用される可能性も十分にあるでしょう」

日経プラス10のホームページ http://www.bs-j.co.jp/plus10/

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