九州新幹線の新型列車さくら、勾配・火山灰対策重ねる

2011/2/2付
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 全線開業まで40日を切った九州新幹線鹿児島ルート。安全性や利便性などを担保する技術面での準備も最終コーナーに差し掛かった。車両や運行システムなどには九州新幹線ならではのテクノロジーやノウハウもちりばめられている。鹿児島中央―新大阪間を直通運転する新型列車「さくら」に象徴される九州新幹線の実力を検証する。

 新幹線全通を目前に控え、最高時速260キロメートルで試運転を重ねるさくら用新型車両。山陽新幹線を走る「N700系」の車両がベースで、塗装こそ違うが外形上はうり二つ。だが“心臓”の数が山陽新幹線を上回る。

 「あの坂を越えられなければ、全通にこぎ着けられない。ルート変更ではなく、車両の動力アップが検討課題になった」。九州旅客鉄道(JR九州)幹部はさくらの開発過程を振り返る。

 山陽新幹線のN700系では先頭と最後尾の車両に動力源のモーターがないのに対し、さくらは全車両にモーターを搭載。博多駅と新鳥栖駅の間の筑紫トンネル内の傾斜を越えるためで、さくらにとっては心臓破りの坂になるからだ。

 その勾配は走行距離100メートル当たり高さ3.5メートルを上る。険しい山中を駆け抜ける長野新幹線でも最も急な場所は同3メートルで、筑紫トンネルは全国の新幹線網の中で最もきつい坂だ。

 筑紫トンネルが貫通する山には大きな地下水源があるため、「水源から離れた標高の高い部分を掘り進めざるを得なかった」(鉄道建設・運輸施設整備支援機構)。その結果できたトンネル内の急勾配をさくらは上りきるため、搭載モーター数を増やし、電力変換装置のインバーターなども追加した。

 “強心臓”を得たさくらだが、すぐに次の壁にぶち当たる。省エネルギーに逆行する重量増だ。さくらの開発陣は1両約42トンの車両を100グラム単位で軽量化する作業に着手した。

 「アルミの肉厚をもっと薄くできないか」。開発陣に加わった日立製作所の流川博光・車両システム設計部主任技師は、8000枚に及ぶさくらの設計図を前に川崎重工業など他の4社の技術者と向き合い続けた。

 流川氏らは軽量化できそうな約300カ所をしらみ潰しに点検。車体のアルミ部材の薄肉化や部品点数の削減などに知恵を絞った。その結果、アルミ部材は成型技術に工夫を凝らしたり、構造を見直したりすることで、強度を維持しながら軽量化することに成功。最終的に1編成(8両)当たり計4~5トン程度の“ぜい肉”をそぎ落とした。

 全車両へのモーター搭載は軽量化以外の「カイゼン」も技術陣に迫った。操縦・保安機器などの電装品が集まる先頭車両。モーターや関連機材を単純に搭載すれば、「各種電装品の電気回路を狂わせるノイズが発生する」(流川氏)。

 回路をノイズから守るため、電装品の設計を見直し、変圧器などに使うアモルファス金属という特殊素材や樹脂材を絶縁体に使用した。「開発陣が知恵を持ち寄り、どんな難所でも(山陽新幹線の)N700系と同等のスピードと馬力で走れるようにした」と流川氏は語る。

 噴火活動が活発化している宮崎・鹿児島県境にある霧島山・新燃岳(しんもえだけ)。さくらは九州特有の火山灰対策にも余念がない。車輪とモーターをつなぐギアボックスは水も浸入できないほど密封性を高めた。従来はちりなどの混入を防ぐ程度だったが、「有数の火山帯を抱える九州を走る上で改良は必然だった」(JR九州)。

 「技術の粋を集め、何とか期待通りの車両になった」。JR九州の三堂博和・車両課副課長は九州仕様に仕上がったさくらに安堵する。3月の全通後に多くのビジネス客や旅行客の利用が予想される九州新幹線。その晴れ姿は開発陣の地道な努力の積み重ねが下支えしている。

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