大手牛丼チェーンの値下げ合戦が過熱している。牛肉の値下がりに歯止めがかからないことが、牛丼の安値競争の呼び水になっている。牛肉安の背景にあるのがBSE(牛海綿状脳症)問題や、消費者の低価格志向の高まりによる消費量の落ち込みだ。
業界大手が相次ぎ値下げ
「お互いに体力を削るだけの消耗戦ではないか」。大手食肉卸の輸入担当者は、値引き合戦を繰り広げる牛丼チェーンの先行きを心配する。業界最大手の吉野家は7~13日、牛丼や牛皿など主要メニューの価格を110円引き下げるキャンペーンを実施した。通常380円の牛丼並盛りは約3割引きとなり、さらに一部店舗では期間限定の割引券も配布した。
松屋も12~23日に70円値下げし、並盛りを250円に。すき家も21日まで一部店舗で値引きキャンペーンを実施中だ。吉野家の3月の既存店売上高は前年同月比20.6%減と大幅に落ち込み、13カ月連続で前年同期の実績を下回った。「在庫減らしが目的の吉野家の値引きキャンペーンが、同業他社を巻き込み、安売り合戦に拍車を掛けたのではないか」との声が食肉業界で聞かれる。
牛丼の主要具材の牛肉も消費不振などを背景に値下がりしており、安売りにつながっている。牛丼に使うバラ肉、米国産ショートプレートの輸入価格は現在、1キログラム635円前後で、直近高値の2008年秋~09年初めに比べ25%安い。米国産のステーキ用テンダーロインのチルド牛肉は1キログラム2600円前後と、07年12月の高値(4400円)から4割ほど安い。東京食肉卸売市場の和牛も軟調で、高級クラスのA4の価格は同様に2割強下がっている。
牛肉消費、2000年の8割弱に

消費量の落ち込みが響いている。03年12月に米国でBSE感染牛が見つかり、日本政府は米国産牛肉の輸入を全面的に停止。その後、感染リスクが低い月齢20カ月以下の牛の肉に限って輸入を再開したが、需要は現在も回復していない。09年の米国産牛肉の輸入量は約6万9000トンで、03年の約4分の1に低下。牛肉全体の需要も84万2000トンと、00年のピーク時に比べると8割弱に落ち込んでいる。
食肉関係者の多くは、割安で安定した調達ができる米国産牛肉の輸入制限の緩和が需要回復のカギと見ており、日米政府間の協議の行方に注目している。
「BSEによる経済的な後遺症は続いている。早急な対処をお願いしたい」。3月26日、日本食肉輸出入協会や全国焼肉協会など食肉関係6団体は、民主党幹部に小沢一郎幹事長あての要請文を提出、米国産牛肉の輸入制限の緩和を求めた。それから約2週間後の4月8日。赤松広隆農相とビルサック米農務長官が会談し、輸入制限問題について日米両政府で定期的に協議する場を設けることで合意。政権交代などによって約2年間、事実上ストップしていた日米間の政府交渉がようやく再開に向け動き出すことになった。
方向感のない輸入制限協議
食肉業界は「米国産牛肉の輸入制限の緩和が、需要を喚起し、外食などの関連業界を活性化する」と主張するが、日米の輸入制限を巡る協議の行方は流動的だ。現状では、段階的な規制緩和を求める米国側と、「緩和には安全性を証明する科学的知見が必要」とする日本側との間で「互いの考えに距離がある」(赤松農相)からだ。
輸入制限が緩和された場合の牛肉相場への影響も、業界内で見方が分かれている。「価格下落は、かつて米国産の依存度が大きかった牛丼向けショートプレートや牛タンなど一部品目にとどまる」(食肉卸)との声がある一方、「一時的に牛肉全体の相場が下落する可能性は否定できない」(輸入商社)との声も聞かれる。
国内でBSE感染牛が初めて確認されてから約8年半。その間、牛肉の需給構造は大きく変化した。BSE発生前、国内市場は米国産、豪州産、和牛がほぼ3分の1ずつ、シェアを分け合っていたが、現在は豪州産が輸入量の約8割を占めるようになった。牛肉の安全性が揺らいだことや、消費者の節約志向の高まりを受け、牛肉から豚肉、鶏肉などの低価格品への需要シフトも進んだ。米国産牛肉の輸入制限緩和を求める業界の声は高まる一方だが、消費者の牛肉離れに歯止めを掛け、完全復活するのは容易ではないだろう。
(商品部 北尾厚)










