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理想へ打ち込み1日400本 アーチェリー・古川高晴(上)

2016/4/11 12:00
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 左手で弓を押し出し、右人さし指を顎のラインに沿わすように弦を引いていく。その射形の美しさは世界トップクラスと評される。近年の日本のアーチェリー界をけん引してきた古川高晴(近畿大職員)は青森東高で競技を始めて以来、的の真ん中を射抜く爽快感に魅せられてきた。

「美しさ=再現性の高さ」

世界トップクラスの美しさと射形で、日本をけん引する

世界トップクラスの美しさと射形で、日本をけん引する

 「美しさ=再現性の高さ」と話す第一人者の考え方は興味深い。刻一刻と変化する風は頭に入れるのだが、全く同じ動作を繰り返せば毎回同じところに矢は飛んでいくはず。それは考えてできるものではなく、豊富な練習量によってしか身につかないという。今も1日400本を黙々と射るのは無意識でも理想の射形になるように体に染み込ませるため。「アーチェリーは集中、打つ、リラックスの連続。一連の動作やリズムが意識されずに自動化されると、的の真ん中に矢が吸い込まれていく。『ゾーン』みたいなものです」

 2012年ロンドン五輪で日本勢史上3人目の銀メダリストになって脚光を浴びた。今夏のリオデジャネイロ大会は4度目の五輪。大舞台は慣れているはずだが、そう簡単ではないのがアーチェリーの奥深さだ。

 70メートル先の的に矢を放つ五輪では、10点が得られる中心部の直径はわずか12.2センチ。針の穴に糸を通すような営みは心の乱れによっても勝負を分ける。むしろ「95%はメンタルが占める」と思うほどで、過度な緊張や邪念が手元を狂わす。「10点、10点ときたらまた10点を奪いたくなるけど、その気持ちが力みを生んで外してしまう。9点でもいいか、くらいがちょうど良かったりする。難しいですよ」

 相手の得点が目に入れば心理状態も変わる。激しく気持ちを奮い立たせる競技とは対極にあり、求められるのは平常心や冷静な状況判断だ。最終的には金メダルがかかった1本で普段通り打てるかどうか。ただ、特別なメンタルトレーニングの必要はないと思っている。「練習で集中力は鍛えられる。それで十分」

「あの子はとにかく練習好き」

 リオ五輪代表を決めて銅メダルを獲得した昨夏の世界選手権。調整に失敗して射形が不安定なまま臨んだが、3位決定戦ではシュートオフ(延長戦)で競り勝った。多少の緊張を覚えても調子が悪いなりに自分をコントロール。多くの五輪選手を輩出してきた近大洋弓部監督の山田秀明は、精神的に強くなった姿をみて感心している。「もともとびびるタイプだったが、最近少し変わってきた。粘り強さが出てきた」。今の古川の強さは好不調に関わらず、世界の上位に入れる安定感にあるといっていい。

 「あの子はとにかく練習が好き」と山田が言う通り、朝から晩まで10時間打ち続けても飽きることがない。努力の人ではあるが、同じことを続けられるのも一つの才能だろう。五輪を経験するごとに一回りも二回りも大きくなって世界レベルに到達した古川にとって、指にできたタコは勲章といえるのかもしれない。(敬称略)

〔日本経済新聞夕刊3月28日掲載〕

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