特集:リアル開発会議

フォローする

Myニュース

有料会員の方のみご利用になれます。
気になる連載・コラムをフォローすれば、
「Myニュース」でまとめよみができます。

新薬開発で3000億円超 「本当に新しいもの」見つける極意
上野隆司 医薬発明家

(1/3ページ)
2014/8/20 7:00
共有
保存
印刷
その他

 技術のボーダーレス化が進む中、これまでとは異なる分野の事業者が他分野の技術を活用することで、急成長する事例が増えている。日本企業は今、「外」に活路を求め、多様な人たちと議論し、従来の殻を打ち破る必要に迫られている。新規事業や異業種連携を加速させる取り組みをはじめ、技術の波及がもたらす新ビジネスの可能性などを紹介していく、特集「リアル開発会議」。連載第7回は、自ら発見した「プロストン」という物質を医薬品に応用する創薬ベンチャーを日本と米国で立ち上げ、いずれも上場企業に育て上げた実績を持つ上野隆司氏に、「開拓者の流儀」について語ってもらう。

上野隆司(うえの・りゅうじ) 医薬発明家、米スキャンポ・ファーマシューティカルズ 共同創業者兼名誉会長。米VLPセラピューティクス 会長兼CMO(最高医学責任者)。1953年大阪生まれ。慶應義塾大学医学部卒。医師、医学博士、薬学博士。米国消化器学会名誉会員。1989年に日本で創薬ベンチャーのアールテック・ウエノを創業。1996年に拠点を米国に移し、スキャンポを共同創業。2012年に米VLPセラピューティクスを共同創業し、現在に至る。これまでに開発した二つの新薬の売上高は、世界で3000億円を超える。著書に『世界で3000億円を売り上げた日本人発明家のイノベーション戦略』(朝日新聞出版、2013年3月)

上野隆司(うえの・りゅうじ) 医薬発明家、米スキャンポ・ファーマシューティカルズ 共同創業者兼名誉会長。米VLPセラピューティクス 会長兼CMO(最高医学責任者)。1953年大阪生まれ。慶應義塾大学医学部卒。医師、医学博士、薬学博士。米国消化器学会名誉会員。1989年に日本で創薬ベンチャーのアールテック・ウエノを創業。1996年に拠点を米国に移し、スキャンポを共同創業。2012年に米VLPセラピューティクスを共同創業し、現在に至る。これまでに開発した二つの新薬の売上高は、世界で3000億円を超える。著書に『世界で3000億円を売り上げた日本人発明家のイノベーション戦略』(朝日新聞出版、2013年3月)

 「ピカ新」「ゾロ」「ミーツー」。これらは、製薬業界の専門用語である。ミーツーは英語の「me too」で、新薬ではあるものの、既存薬と化学的に少しだけ違うというレベルのもの。ゾロはジェネリック(後発)医薬品のことである。ぞろぞろと後を追い掛けるところから名が付いた。

 私が研究開発で追求している医薬品は「ピカ新」である。従来の医薬品とは化学構造が骨格から異なる画期的な医薬品のことで、「ピカピカの新薬」が語源だ。もちろん、ピカ新だからすごいと言いたいわけではない。患者の金銭的な負担を減らすゾロやミーツーも社会の中で重要な役割を担っている。

 ただ、ピカ新は新しい治療の可能性を開き、市場を大きくする、いわば「イノベーション型」の商品だ。一方、ゾロやミーツーは、既存の市場を奪い合う置き換え型の商品と言えるだろう。

■臨床医としての「勘」を生かす

 ピカ新の研究開発を手掛ける中で実感してきたことがある。それは、本当に新しいものは市場調査の結果からは生まれてこないという事実だ。医薬品も他の分野と同じように、先行薬があれば、その売れ行きで市場規模が分かる。しかし、ピカ新は、どんなに市場調査をしても、「市場がありません」という回答しか返ってこない。なぜなら、先行事例が世の中に存在しないからである。

 例えば、私が開発した2番目の新薬で、2012年に日本でも承認を受けた「アミティーザ」という慢性便秘症の治療薬がある。新しい処方箋便秘薬の登場は、業界では32年ぶりのことだった。慢性に使用できる便秘症の処方箋薬では日本初である。

 これだけ長い間、新薬が出ていなかったということは、処方箋医薬品としては忘れられた分野だ。便秘は病気ではなく、正常の中のバリエーションだと思っている人がほとんどである。仮に製薬会社が市場調査をしても、大したマーケットは存在しないという結果になるだろう。

 ではなぜ、私がこの分野の可能性に気付くことができたか。それは、臨床医として患者に触れた経験による「勘」があったからだ。

 医師の視点では、便秘で苦しんでいる人は老人を中心に非常に多い。これまでは「便秘は単に便通を良くすればいい」と考えられてきたが、実は違うケースがある。慢性便秘でお腹が痛いという症状は、単に便が詰まっているだけではなく、ストレスなどで腸にダメージを受けている可能性があるのだ。

 それを修復すれば、便通が良くなることに加え、腸のダメージを修復する治療にもつながる。そう発想すると、これまでとは全く異なるアイデアが生まれる。その結果がアミティーザである。

■分からないからこそ多くの可能性

画像の拡大

 「何となく、ここに市場がありそうだ」。こうした直感は商品開発する際にかなり重要な要素であるが、市場調査の数字からは獲得できない。薬であれば、医療現場で売れている状況や、患者に使われている様子を知っていることが勘につながる。デジタル関連の商品ならば、ユーザーが商品を使っている姿かもしれない。

 技術者が技術だけを見て、どんなに技術的に優れていると主張しても、使う人がいなければ商品にはならない。技術革新、つまり発明は、必ずしもイノベーションにつながるとは限らないのである。

 例えば、難病にすごく効く薬を発明したとしよう。その薬によって救われる患者にとっては素晴らしい発明である。しかし、患者が世界に50人しかいなければ、ビジネスにはならない。発明という観点では重要な発見だが、開発までに数十億円、数百億円の費用が掛かる以上、ビジネスを見越した計画性がなければ、新しい事業にはつながらないのだ。

 その際に難しいことは、リスクをどう捉えるかだろう。先行事例がない開発を手掛けようとすると、資金を提供する多くの人々から「やめておきなさい」と言われがちである。判断指標がなく、リスクが高いからだ。もし、既に成功した商品を持つ企業であれば、その傾向はさらに強くなる。

  • 前へ
  • 1ページ
  • 2ページ
  • 3ページ
  • 次へ
共有
保存
印刷
その他

電子版トップテクノロジートップ

企業・業界をもっと詳しく

企業がわかる。業界がみえる。ニュースとデータをまとめてチェック!


日経BPの関連記事

【PR】

特集:リアル開発会議 一覧

フォローする

Myニュース

有料会員の方のみご利用になれます。
気になる連載・コラムをフォローすれば、
「Myニュース」でまとめよみができます。

スマートグラス「Cool Design Smart Glass」

異業種連携で「スマートグラス集積地」へ、鯖江市

 「堅い」「遅い」「補助金頼み」。一般にこうした有り難くないイメージが定着している自治体のなかで、福井県鯖江(さばえ)市は異色の存在だ。最近では公共データのオープン化を推進する「データシティ鯖江」をは…続き (2016/3/10)

出産後の赤ちゃんが並ぶ新生児室=2010年5月、東京都練馬区日大練馬光が丘病院。

コスト100分の1の保育器 新興国の未熟児問題解決へ

先進国で当たり前に存在する物やサービスが、発展途上国ではコストの壁によってなかなか普及しない。業界を問わず、よく聞く話である。体温調節機能や呼吸機能が不十分な新生児を守るための…続き (2015/7/28)

世界企業が続々 日本に押し寄せる「スポーツ×IT」

 今、世界の先進企業の間でスポーツビジネスへの関心が高まっている。特にIT(情報技術)をはじめとする技術系企業がスポーツ分野に注ぐ視線は熱い。背景にはスポーツビジネスの特異性があると、関連の動向に詳し…続き (2015/7/21)

新着記事一覧

最近の記事

【PR】

日経産業新聞 ピックアップ2017年6月28日付

2017年6月28日付

・ドローンとAIで獣害優しく防ぐ スカイロボット、動物の行動予測、超音波で退ける
・網膜の炎症に飲み薬 窪田製薬が再挑戦
・太陽光パネルのアンフィニ、福島に新工場 国産で住宅市場に照準
・日本信号、屋外でも高精度に障害物検知 小型3Dセンサー
・東大発VBのエルピクセル、基礎研究をAIで効率化 細胞画像を自動判定…続き

日経産業新聞 購読のお申し込み
日経産業新聞 mobile

[PR]

関連媒体サイト