球場が呼んでいる(田尾安志)

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球宴の思わぬ副産物 ベンチは研究と攻略の教室

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2017/7/16 6:30
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 今年のオールスターゲームも盛況のうちに終わった。ペナントレースのブレークタイムに行われる球宴は、選手にとってつかの間の安息のとき。日ごろは血走った目で白球を追うのに対し、このときばかりは童心に戻った感覚で野球を楽しんだのではないか。

 私は中日時代の1980~84年、西武での85、86年と計7回オールスターに出場した。通算成績は39打数5安打で打率1割2分8厘。本塁打はゼロで、最優秀選手(MVP)になることはできなかった。

 それでも中日のときに優秀選手に2度選ばれている。1度目は大阪球場で行われた82年の第3戦で、2―2の七回に代打で適時打を打った。全セの勝利を決める一打だったことで、先制2ランの掛布雅之(阪神)とともにMVP候補になったが、明暗を分けたのは守備だった。全セは七回に遊撃・真弓明信(阪神)、二塁・篠塚利夫(巨人)、一塁・掛布、捕手・山倉和博(巨人)の4人でトリプルプレーを完成。この珍事に絡んだことが決め手となり、MVPは掛布が手中に収めたのだった。

王さんの打撃フォームは時を重ねるごとに丸みを帯びていった印象がある

王さんの打撃フォームは時を重ねるごとに丸みを帯びていった印象がある

 2度目は84年の第3戦。ナゴヤ球場での開催だったことも手伝い「1番・中堅」で先発出場、2安打を放って表彰された。MVPは8者連続奪三振の江川卓(巨人)。あと1人で江夏豊さんが阪神時代にマークした「9者連続」のオールスター記録に並ぶというところで、大石大二郎(近鉄)に外角のカーブを当てられてセカンドゴロになったシーンをご記憶の方も多いだろう。

 うなるような直球でパの打者を牛耳っていただけに「何でカーブを投げたのかな」と思って江川に話を聞いたところ、仰天のプランを温めていた。2ストライクから低めのカーブを振らせた上で捕手がその球を後逸、振り逃げで出塁させ、次の打者から新記録となる10個目の三振を奪う狙いだったというのだ。いやはや「怪物」のクレバーさには恐れ入る。

間近で観察、またとない勉強の場

 外野手だった私は公式戦では相手チームの打者を遠くから見ていただけに、一流選手の打撃をベンチから見られるオールスターはまたとない勉強の場だった。特につぶさに見たのが、構えたときのグリップの位置。グリップが顔の近くにあると狙ったポイントに向かって正確にバットを出すことができるが、これができていたのが王貞治さん(巨人)や若松勉さん(ヤクルト)、中日時代の先輩の谷沢健一さんだった。

田尾安志氏

田尾安志氏

 王さんは顔から遠いところにグリップを置く時期もあったが、現役生活の後半は常に耳のそばにグリップがあった。時を重ねるごとに角が取れていったというか、フォームが丸みを帯びていった印象で、円熟味というのはこういうことをいうのかと思ったものだ。

 様々な選手に打撃論を聞けるのもオールスターの醍醐味だが、苦手を克服するきっかけにもなった。中日にいたころ、対戦するのが嫌だった投手に広島などで活躍した福士敬章(松原明夫)さんがいた。打者に死球を当てても全く気にしない右投手。私は球をよけるのがうまく、16年間のプロ生活で死球は13個しかなかったが、福士さんにはよくブラッシングボールを投げられた。

 体付近に投げさせないようにするには、と考えて思いついたのが福士さんと仲良くすること。全セの同僚としてオールスターに出たある年、思い切って福士さんに話しかけてみた。他愛のない話を重ねるうち、どんどん打ち解けていく。するとどうだろう、公式戦で再び敵味方に分かれても、体に近い球はほとんど投げてこなくなった。

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