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撲滅までの長い道のり、着実に前進 顧みられない熱帯病(1)

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2017/5/15 6:30
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Financial Times

 今から30年以上前にギニア虫感染症(メジナ虫症)の根絶を目指す仕事に取り組み始めたとき、エルネスト・ルイス・ティベン氏は「死んだゾウの尻尾をつかんで沼地を引きずるような仕事になる」と感じた。

中国北西部のウルムチで、エキノコックス症に伴う肝臓手術から回復する9歳の女児(C)Gilles Sabrie
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中国北西部のウルムチで、エキノコックス症に伴う肝臓手術から回復する9歳の女児(C)Gilles Sabrie

 ギニア虫感染症は、世界の「顧みられない熱帯病(NTDs)」の中でも特に不快な疾患の一つだ。水によって媒介される寄生蠕虫(ぜんちゅう)のギニア虫は、人間の体内で長さ1メートルまで成長した後、通常は人間の足から皮膚を破って体外にゆっくり出てくる。その痛みは激しく、犠牲者を衰弱させる。だが、1981年に転機が訪れた。医療関係者らが少し前の天然痘根絶――人間の感染症が撲滅された歴史上初めての出来事――に鼓舞され、ギニア虫感染症を次のターゲットに据えたのだ。当時、アジアとアフリカで推定350万人が毎年、「貧困病」と呼ばれ、ほかのNTDsと同様、世界で最も困窮した地域社会に最大の被害を及ぼすギニア虫感染症に感染していた。

 世界保健機関(WHO)は貧困と関係した多くの熱帯病の中から、制圧、撲滅、場合によっては根絶を目指す適切なターゲットとして18種類の疾患を選んだ。昔からあるこれらの疾患は、生活に支障を来し、変形をもたらす症状で悪名高い。そして、ハンセン病であれ、象皮病であれ、その一部は過ぎ去った時代の病気のように思える。多くの疾患には効果的な治療法が存在する。資金が潤沢な医療制度と公衆衛生の改善が感染を鈍化させた先進国で、これらの疾患が事実上消滅したことは、それで説明がつく。

■政治・地域社会の関与不可欠

 一方、世間の関心と資金は、マラリア、エイズウイルス(HIV)、結核という致命的な「三大感染症」との闘いに向けられてきた。これに対してNTDsは知名度が低く、発生した時期や場所に関する信頼できるデータの欠如にも足を引っ張られるうえに、古風で発音不能な名前のせいでNTDsを世に広めるのが難しくなっている。

 フィナンシャル・タイムズ(FT)特派員と世界中のフリーランスジャーナリストによって書かれたこのスペシャルリポートは、NTDsとの戦いは決して絶望的ではないことを示すものだ。ギニア虫感染症の根絶を目指す運動は、成功に向けた重要な指針を与えてくれる。英国に本拠を構える慈善団体サイトセーバーズのガーナ担当プログラムマネジャーを務めるデビッド・アグエマン氏は、高度な政治的コミットメントが第一の必要条件だと指摘する。

河川盲目症で失明したガーナ・アスベンデの住民(c)Cristina Aldehuela
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河川盲目症で失明したガーナ・アスベンデの住民(c)Cristina Aldehuela

 ジミー・カーター元米大統領は自身の運営する非政府組織(NGO)「カーター・センター」を通じ、企業と国家元首の間でNTDs撲滅の大義を提唱してきた。また、感染の広がる国々を訪問することで圧力をかけながら責任を負うことを迫り、1990年代には医療従事者がリスクにさらされている人たちにアクセスできるようスーダンで停戦の仲介をしたこともある。

 前出のルイス・ティベン氏が率いるカーター・センターのギニア虫感染症撲滅運動は、大きな進歩を遂げてきた。衛生教育と幼虫駆除剤、浄水器、そして断固たる決意の組み合わせが、発症例が2016年に4カ国でわずか25件まで減るのを後押しした。

 「これが終わる日付を特定することはできないが、実現するために必要なことはすべてやっている」とルイス・ティベン氏は言う。

 以前、ガーナ省庁のギニア虫感染症との闘いの責任者だったアグエマン氏に言わせると、キャンペーン成功のもう一つの要因は、地域社会が「責任を持った」ことだ。例えば、村民は感染源となった水域の隣に警備員を配置し、入り込んだ人には罰金が科された。しかし、ほかのNTDsに関する運動では、地域社会の関与と政治的コミットメントの証拠がそれほど見られないという。

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