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東芝「夢の原発」失墜 揺らぐ国策民営

2017/2/15 14:05
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 東芝が米国の原子力発電事業で7000億円を超す巨額損失を計上する。東芝が追い続けてきた「夢のエネルギー」はどこでつまずいたのか。原発プラント事業の歩みをたどると、企業では手に負えないリスクの膨張と、姿を変えた競争の現実が見えてくる。

■大阪万博で開いた扉

WHは日本の原発時代の扉を開いた(大阪万博に届いた関西電力美浜原発の電気、1970年8月)
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WHは日本の原発時代の扉を開いた(大阪万博に届いた関西電力美浜原発の電気、1970年8月)

 「関西電力の美浜発電所から、原子力の電気が試送電されてきました」。1970年8月8日、大阪万博の電光掲示板が大きく表示した。

 美浜原子力発電所(福井県美浜町)1号機の出力は34万キロワット。日本で最初に商業運転した加圧水型軽水炉である。建設を請け負ったのは、米ウエスチングハウス(WH)と三菱原子力工業(現三菱重工業)だ。

 「原子の灯を万博に」を合言葉に、関電が美浜1号の建設に着手したのは今から半世紀前の67年だ。「敦賀や美浜の電気が万博を照らしていると聞けば誇らしかった」。今は日本有数の原発立地地域となった福井県若狭地方の商工会議所関係者が振り返る。

 71年には米ゼネラル・エレクトリック(GE)製の沸騰水型軽水炉を採用した東京電力(現東京電力ホールディングス)福島第1原子力発電所1号機が運転を始めた。GEと協力し、3号機の原子炉は東芝が、4号機は日立製作所が納めた。

 石油ショック後、原発は建設ラッシュが続いた。国の政策に沿って電力会社が原発を運営する「国策民営」が生まれ、そこに原発メーカーも深く組み込まれていった。

 今、東芝を揺さぶる巨額損失は、原発推進を支えてきた国策民営の揺らぎと無関係ではない。

 転機は2006年の東芝によるウエスチングハウス買収だ。米スリーマイル島原発やソ連(現ウクライナ)のチェルノブイリ原発事故を経験した米欧では、原発は停滞した。しかし、成長軌道に乗った新興国で、原発は不足する電力供給をまかなう切り札として導入計画が相次いでいた。

 GE、三菱重工、韓国企業……。15グループ以上が買収に名乗りをあげた。特に東芝は執念を燃やした。「海外に出る絶好のチャンスだ」。西田厚聡社長(当時)の掛け声の下、提示額を上げた。美浜原発以来、WHを原発事業の師としてきた三菱重工との一騎打ちになったが、当時の為替レートで6200億円に跳ね上がった東芝の提示額に追いつけなかった。

 WHの東芝傘下入りをきっかけに、日立はGEと、三菱重工は仏アレバに接近し、プラント3社の陣営作りと海外市場の開拓が本格化する。増大する海外の原発需要を取り込む。方向性は間違いではないだろう。だが市場の拡大に伴って、原発プラントをめぐる競争は複雑化した。

 まず、原発の買い手だった中国や韓国が技術を身につけ、売り手として国際市場に現れた。国家の首脳級が売り込みの先頭に立ち、建設資金や運転・保守まで一括提供するロシアや中国に日米欧のメーカーも対抗せざるをえなくなった。

記者会見する東芝の綱川社長(14日午後、東京都港区)
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記者会見する東芝の綱川社長(14日午後、東京都港区)

 みずほ銀行産業調査部の田村多恵調査役は「原発には様々なリスクが内在することから一メーカーでは負担できず、国の支援がより求められるようになった」と語る。

 プラントを仕上げる難しさも増した。導入国の政策転換や地元の反対、安全規制の強化など、予期せぬ事象が受注リスクを押し上げた。

 決定打になったのは11年の福島第1原発の事故だ。日本では新設はもちろん、稼働中の原発もすべて止まった。ドイツは原発全廃へかじを切り、各国で強化された安全規制は事業者に新たな負担を強いた。WHの巨額損失の背景にも米国の規制強化があるとされる。

 日本政府は事故後の15年につくった電源の最適組み合わせ、いわゆる「エネルギーミックス」で、30年時点の原子力比率を20~22%とし、原発を主要電源として使い続けることを確認した。温暖化ガスを30年度に13年度比で26%減らす国際公約は原発抜きで達成できない。原発の発電コストは電源の中で最も安い。

■リスク、企業だけでは負いきれない

 ただし、事故が起きれば、甚大な被害が発生し、企業の存続は危うくなる。福島の事故が突きつけたのは、エネルギー政策上、原発という選択肢を捨てるわけにはいかないが、一企業が背負うには大きすぎるリスクだ。

 原発をどう維持していくのか。東電HDは他社と連携する方針を打ち出した。電力業界では再編の胎動が始まっている。プラントメーカーも例外ではいられない。

 日本で最も新しい原発は09年運転の北海道電力泊原発3号機だ。三菱重工が手掛けた。日立や東芝も05~06年を最後に新設原発を完成させた経験はない。3社とも当面は電力会社の再稼働支援などで忙しい。廃炉ビジネスもあるだろう。

 みずほ銀の田村氏は「新設案件がなければ技術の維持は難しい。泊の記憶が残るうちに、経験をつなぐ必要がある」と語る。原発が過渡的なエネルギーであるとしても、使い続ける限り安全性を高める努力はメーカーの責務だ。事業から手を引くことが解ではない。

 関電は15年3月、美浜1号の廃炉を決めた。同じ年、WHは米国の原発建設のパートナーであるエンジニアリング会社、CB&Iストーン・アンド・ウェブスターを買収した。その損失の底なし沼が東芝を引きずり込む。東芝の綱川智社長は14日の会見で「買収時に認識していなかったコストが判明し、買収でできると思っていた作業の効率化が進まなかった」と語った。日本の原発時代の扉を開けたWH製原子炉の引退と、WHに賭けた東芝の誤算。2つが重なったのは偶然だろうか。

 一企業が負えないリスクをどう乗り越え、国際競争に挑むのか。国と電力会社、そしてメーカーが役割を見直す時だ。(編集委員 松尾博文)

[日経産業新聞 2月15日付]


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