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たたき上げ 昭和の趣 稀勢の里の相撲道(下)
「模範になる」素朴な誓い

2017/1/26 2:30
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 初場所14日目に初優勝が決まった時、喜びの声は「うれしいですね」のひと言だった。場所中の稀勢の里は多くを語らない。「(白鵬が負けての優勝を)過剰に喜ぶのも……。場所もまだ終わっていなかったから」と述べたのは場所後のことで、素朴な感想に添えられたのは、ほおをつたう一筋の涙だけだった。

横綱昇進の伝達式後、笑顔でポーズをとる稀勢の里(25日午前、東京都千代田区)

横綱昇進の伝達式後、笑顔でポーズをとる稀勢の里(25日午前、東京都千代田区)

 先代師匠の故・鳴戸親方(元横綱隆の里)の「勝敗にかかわらず、土俵では感情を表に出すな」という教えが胸にある。2010年に白鵬の連勝を63で止めた一番でも、にこりともせずに勝ち名乗りを受けた。

 角界は連日大入りの好況にあり、個性豊かな力士がそろう。モンゴル出身の3横綱も三者三様だ。白鵬は唯一無二の大横綱。スピードと闘争心の日馬富士、技巧の鶴竜にもひいきがいる。モダンで洗練された遠藤や勢に新たなファンがつき、巨漢をなぎ倒す石浦や宇良の姿も国技館を盛り上げる。支度部屋を見わたせば多士済々、多くはにぎやかで弁が立ち、勝った後に花道で付け人とハイタッチする者もいる。

 そこに、への字口で部屋の上がりかまちに鎮座する力士がひとり。冗舌のなかの稀勢の里の沈黙はかえって目立つ。ファンだという元横綱審議委員の内館牧子氏(脚本家)は、その魅力を「昭和時代のメンコに描かれた力士のような清廉さ」と評する。武骨で素朴で力持ち、そんなクラシックなお相撲さん。

 中卒たたき上げという、かつては当たり前だった稀勢の里の履歴もいまや希少になった。初場所の幕内力士42人のうち外国出身が15人。残る日本勢で遠藤や正代、御嶽海ら次代を担う逸材は軒並み学生相撲出身である。

 “たたき上げ組”の浅香山親方(元大関魁皇)は「15歳から(厳しいプロの世界で)努力して少しずつ強くなる姿が応援される。本物の強さを築くには5年、10年とかかるから」と話す。確かに、歴代の横綱はほぼ中卒たたき上げだ。

 駆け出しの「萩原」時代もよく知る元兄弟子の西岩親方(元関脇若の里)は「入門当初から(角界一厳しい稽古で知られた)部屋で誰よりも稽古した。泥まみれ、血まみれになってね」。こうした血と汗の物語も好角家の心をくすぐるのか。破格の声援が集まるのもむべなるかなだ。

 「尊敬される横綱、力士の模範になりたい」。寡黙な口が語った素朴な誓い。難しい四字熟語はなくても、覚悟のほどを雄弁に伝えていた。

(田村城)

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