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「健常者よりうまく」 エンヒッキ松茂良ジアス(上)
アンプティサッカー日本代表

2016/11/6 6:30
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 アンプティサッカーの観戦者は試合前、エンヒッキ松茂良ジアス(愛称ヒッキ、27)のシュート練習が始まった時点で目を見張る。軸足となるべき右足はない。2本のクラッチ(つえ)を支えに、体をムチのように後ろにしならせ、大きくスイングして左足でボールをヒットする。ドスンという重い響きとともに放たれる強烈なシュートが、障害者スポーツに対する固定観念を破壊する。

「プレー見せられ、度肝を抜かれた」

つえを巧みに使い、ドリブルで間隙を縫う

つえを巧みに使い、ドリブルで間隙を縫う

 日系ブラジル人のヒッキが2008年に渡ってくるまで日本にアンプティサッカーは存在しなかった。現在、日本代表監督を務める杉野正幸は8年前をこう振り返る。「片足でサッカーをすると聞いてもイメージできなかった。ヒッキにプレーを見せられ、度肝を抜かれた」

 1980年代に米国で生まれたアンプティサッカーは7人制で、下肢切断障害者がフィールドプレーヤー、上肢切断障害者がGKを務める。ブラジル代表として1度、日本代表として3度、ワールドカップ(W杯)に出場したヒッキはこの競技の魅力を万人に伝える力を持つ。疾駆する高速のドリブル、左右に優雅に切り返して間隙を縫う突破、縦パスを受けながらスルッと前を向く反転。繊細で複雑な体使いによって成り立つ技巧はアートの領域にある。

 そのメカニズムはにわかに理解できない。「クラッチが体の延長になっていなければならない」「普通のサッカーより上半身を使う」というのはヒッキに言われなくても想像できるが、その先は言葉ではわかりにくい。強いシュートを打つには、左右のクラッチを巧みに使い分けて重心を移し、体を微妙にひねってもいるらしい。

 同僚があきれるほどの反復練習により、いまのような強いシュートを打てるようになったのは1年半前で、ぶれ球を半ば習得したのは半年前。特別な筋力トレーニングはしていないが、胸が厚くなり、太ももが太くなったという。

「他選手との一番の違いはあのメンタル」

 技巧が世界のトップレベルにあるだけではない。「他の選手との一番の違いはあのメンタル」とFCアウボラーダの同僚、新井誠治は話す。「体力の限界を超えたとき、プレーのキレが増す。厳しい試合では、みんなでここを踏ん張ればヒッキが何かを起こしてくれると信じて戦っている」

 10月の日本選手権でチームを優勝に導いた決勝での2得点はヒッキの執念を表している。左右にスラロームを切りながら3人をかわして決めたダメ押しゴールは日本一に花を添えた。

 その鬼気迫るプレーの源に何があるのか。「障害者は健常者と同じことをしただけで褒められる。それじゃ嫌なんですよ。健常者よりうまくなりたい。足があるなしにかかわらず、『こいつすごいな』と言われたい」。つまり、純粋にアスリートとして、より高いところを目指している。その思いを耳にすると、健常者のスポーツと障害者スポーツを分けることの無意味を覚える。(敬称略)

〔日本経済新聞夕刊10月31日掲載〕

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