プレスリリース

東大、痛覚を逃避行動へと変換する脳神経回路の解明

2017/8/11 1:05
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発表日:2017年8月11日

痛覚を逃避行動へと変換する脳神経回路の解明

 

1.発表者:

 吉野 次郎(東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 博士課程3年)

 長谷川 恵理(東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 特任助教)

 榎本 和生(東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 教授)

2.発表のポイント:

 ◆痛みを伝える神経回路を発見し、痛みがどのように逃避行動へと変換されるのかを解明した。

 ◆初めて昆虫の痛み回路を入り口から出口まで通して解明した。

 ◆本研究成果は昆虫のみならず、ヒトを始めとする様々な生物での痛みの理解に役立つことが期待される

3.発表概要:

 痛みは誰しもが感じたことのある普遍的な感覚です。我々は痛みを感じる仕組みがあるからこそ、刃物や炎など危険な対象物を察知し、そこから瞬時に逃れることで、大きな怪我やヤケドをせずに生きて行けます。こうした痛みの感覚は生物にとって非常に重要であり、ヒトやネズミなどの哺乳類に限らず、魚や昆虫にも備わっています。これまでに、ほとんどの生物が痛みを検知し危険を避けるという行動を示すことが知られていますが、痛みの感知を逃避行動へと変換する神経回路が、どのように実装されているのかはわかっていませんでした。

 今回、東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻の榎本和生教授らの研究グループは、最新の光遺伝学(注1)、神経活動の可視化技術などを用い、ショウジョウバエ幼虫における痛みの神経回路を明らかにしました。この神経回路は皮膚に存在する感覚神経からはじまり、脳内の神経へと伝わり、特定の筋肉を動かしていきます。本研究の成果は、ショウジョウバエ幼虫のみならず、すべての生き物において痛みがどのようにして行動へとつながっていくのかという生物に普遍的な仕組みを解明するのに役立つと考えられます。

4. 発表内容:

 誰もが痛い思いをし、その原因を避けるという経験をしたことがあると思います。このような痛みを避ける能力は生存のために非常に重要で、ほぼ全ての動物に備わっています。近年の研究から、表皮など痛みに触れる可能性がある部位には、痛みを感じることに特化した神経細胞が配置されており、その神経細胞は痛みを感じる受容体(痛覚受容体)を発現することが分かってきました。その一方で、動物が痛みを感じたときに、その情報をどのようにして逃避行動へと変換するのかという問題は長らく議論されてきましたが、その詳細な仕組みはいまだ不明な点が多く残されています。ショウジョウバエ幼虫は、針で刺されたり、高温に曝されたりすることで強い痛みを感じると、横向きに高速回転運動を行い危険な対象物から逃れようとします(図1)。最近、ショウジョウバエ幼虫の痛覚神経および痛覚受容体が同定され、ヒトと同じ仕組みを使っていることが分かってきました。本研究では、痛覚神経で知覚した痛みを回転運動へと変換するための神経回路を明らかにしました。

 (1) 脳内に存在する痛み情報を受け取る神経

  まず、皮膚に存在する神経細胞が脳に情報を送る際に、自分が持っている痛みシグナルを直接伝える相手となる神経細胞(二次神経細胞)を見つけました(図2)。

 (2) 二次神経細胞が回転運動に与える影響

  次に、二次神経細胞を光遺伝学などにより、直接活性化したり、抑制したりして回転運動に与える影響を調べました。その結果、この神経は活性化すると回転運動を引き起こし、抑制されると回転運動が起こらなくなる回転運動に対して非常に重要な神経であることがわかりました(図3)。

 (3) 痛みを受け取る神経が動かす筋肉

  最後に、二次神経細胞は、特定の筋肉へと痛みシグナルをさらに伝え活性化させることを示しました。この筋肉により回転運動が誘導され痛みを避けます(図4)。

 本研究成果は、痛みによって引き起こされる回転運動の神経回路を、入り口である感覚神経から出口となる筋肉まで解明しました。痛みは我々ヒトでも医学的な観点からも重要な感覚であり、今後この機構がさらに解明されることが期待されます。

5.発表雑誌:

 ・雑誌名:「Current Biology」(オンライン版の場合:8月10日)

 ・論文タイトル:Neural circuitry that evokes escape behavior upon activation of nociceptive sensory neurons in Drosophila larvae

 ・著者:Jiro Yoshino, Rei K Morikawa, Eri Hasegawa and Kazuo Emoto*

8.用語解説:

 注1 光遺伝学:光によって活性化されるイオンチャネル(チャネルロドプシンなど)の蛋白質を、遺伝学的方法を用いて特定の神経に発現させ、光を当てることによって人為的にその神経を興奮させまたは抑制する技術。光(opto)と遺伝学(genetics)を組み合わせた方法であることから光遺伝学と呼ばれる。光遺伝学の開発により、特定の神経の活動を高い時間精度で正確に操作することが初めて可能となった。

 ※図は添付の関連資料を参照

 

 リリース本文中の「関連資料」は、こちらのURLからご覧ください。

http://release.nikkei.co.jp/attach_file/0453455_01.pdf

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