春告げる 氷河期の面影(時の回廊)
京都・深泥池

2016/4/15 6:00
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 京都盆地の北縁、五山の送り火の一つ「妙法」を刻む山の麓と京都市街の接点に周囲1.5キロの池がある。深泥池(みぞろがいけ)だ。水面の過半はミズゴケなどで形成された浮島で覆われ、多様な草木の新芽とミツガシワの白い花が春の訪れを告げる。

氷河期の生き残りとされるミツガシワは4月中が見ごろだ
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氷河期の生き残りとされるミツガシワは4月中が見ごろだ

 京から鞍馬(くらま)や貴船へ至る道筋にあって洛中の人々にもなじみ深く、「類聚国史」や「梁塵秘抄」など多くの古典に「泥濘池」「御菩薩池」などと記されている。

■和泉式部も詠む

 「みどろがいけ」とも呼ばれ古来、神秘的なイメージをまとった。平安期の歌人、和泉式部は「名を聞けば影だにみえじみどろ池に すむ水鳥のあるぞあやしき」と詠んだ。江戸期の画家、池大雅の「池」は祖先の地、深泥池にちなむ。

 こんな伝承もある。池辺の穴から鬼が都へ乱入。煎った豆で目を打って退治した。節分の豆まきの由来という。他にも大蛇など様々な伝説があり、今なお幽霊譚(ゆうれいたん)の舞台となっている。

 ただ今日の深泥池は、都市にありながら「氷河期から遺存している」など不思議な動植物で知られる。寒冷地に生えるホロムイソウが飛び地状に生育し、世界的な南限となっている。花が盛りのミツガシワも氷河期からの生き残りという。

 モウセンゴケなど珍しい植物が繁茂し、ミズグモなどの希少な動物も生息している。1927年、まず水生植物群落が国天然記念物に指定され、88年には動物まで対象が広げられた。

 特異な生態系が育まれた背景について今も研究が続く。池が形成されたのは13万年以上前で「流れ込む川も流れ出す川もなく、三方を囲む山に降った雨水が流れ込むだけ。池の水が貧栄養状態なのが一因では」と京都市文化財保護課の福富雅哉さんは説明する。

■シカの影響危惧

 池の自然を守るため、多くの市民や研究者が尽力している。市の委託で水質を調べている京都自然史研究所の学術顧問、横山卓雄・同志社大学名誉教授は「この10年ほど水質は安定しジュンサイが増えた」と話す。ブルーギルやブラックバスなど外来種の駆除も続く。「少し手を緩めるとぐんと増える。やるしかない」

京都盆地の北縁、山裾と市街の接点に位置する深泥池。浮島が水面の過半を覆う
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京都盆地の北縁、山裾と市街の接点に位置する深泥池。浮島が水面の過半を覆う

 だが最近、生態系を脅かす影が迫る。池の岸で目に付くのは無数の足跡と小さく丸いフン。野生のシカが植物を食べているのだ。

 コケ類が踏み荒らされて枯れ、フンが水の富栄養化を招く心配もある。奈良教育大学の辻野亮准教授が2014年に自動撮影装置を設置して調べると、池周辺の生息数は9年前の7.6倍に増えていたという。「山に人が入ることが少なくなり、シカの生息域拡大と数の増加を招いている」と辻野准教授。「柵などの対策が急務だが、費用や景観など課題が多い」と話す。

 先日亡くなった上田正昭・京都大学名誉教授は、深泥池の自然が守られた背景に畏れや信仰があったと指摘。「池への“つつしみ”をわれらの祖先は会得していた」と記す。自然と街との共生に向け模索が続く。

文 大阪・文化担当 竹内義治

写真 山本博文

 《交通》京都市営地下鉄の北山駅で下車、徒歩約10分。
 《見どころ》池の近くには平安期ごろに地蔵菩薩(ぼさつ)がまつられ、京都の周囲6カ所にあった「京の六地蔵」の1つとされた。夏の地蔵盆の頃には巡礼する人々でにぎわったという。今も池の西方に、代替わりはしたものの地蔵堂が立つ。

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