自立支援雑誌「ビッグイシュー」(とことんサーチ)
販売員 スゴ技拝見!! 手作りPOPで一押しPR お客さんとツアー、常連獲得

2016/12/3 6:00
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 毎朝会社へ向かう道の途中に、必ず1冊の雑誌を掲げて立つ人がいる。ホームレスの自立を支援する雑誌「ビッグイシュー」の販売員だ。英国発祥だが、2003年創刊の日本版は大阪が発祥という。店舗もマニュアルもない、いわば「究極の個人営業」。雑誌の休廃刊が相次ぐ出版不況下でも売れ続ける秘密は何か。販売員に密着してみた。

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 ビッグイシューは12月1日で創刊300号を迎える。創刊当時に毎月1回だった発行回数は2回に増え、年間50万~60万部売る媒体に成長した。販売部数は東京に次いで創刊地の大阪が多い。販売場所は大阪・梅田などの中心街から「大阪・豊中や兵庫・川西能勢口など郊外にも広がった」(佐野章二日本代表)。高級住宅街を抱える阪急宝塚線沿線などでは知名度向上とともに販売も伸びている。驚くことに購入者の7割が女性という。顧客づくりのコツを探るべく11月に3人の販売員を訪ねた。

 「ビッグイシュー11月号、いかがですか」。阪神百貨店梅田本店の再開発工事音が響く大阪・梅田の歩道橋の上。創刊時からのベテラン販売員、浜田進さん(65、写真上)は冊子を高く掲げつつ控えめに呼びかけていた。「大きな声だとびっくりされてしまいます。通行の邪魔にならないよう一歩引いて立つのも大事です」と穏やかに語る。話しかけると客は買いにくくなるため、常連客以外は「『下さい』といわれるまで声はかけません」。何より大事なのは自然体の笑顔でいることだという。

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 感心しながら聞いていたが、とにかく寒い。向かい風に涙が出てくる。我慢して観察すること1時間半。購入者は4人と想像より多く、全員50~60代の女性だった。買った理由を尋ねると「清潔感があるし、笑顔が良い」と返ってきた。

 常連客も多い浜田さんに常連の作り方を聞くと、おもむろに手作りの冊子「梅田通信」を取り出し「これを雑誌と一緒に配ったり、お客さんを交えた『歩こう会』を開いたりしています」と笑った。自ら下調べした阪急神崎川駅周辺の地蔵・三津屋城跡を巡るツアーなど、開催数は既に80回を超す。体験を通じて地道にファンを増やしている。

 2人目の梅田付近で売っている吉富卓爾さん(46、写真下)は、過去にスーパーで働いた経験を生かした独自のPOP(販促物)が特徴だ。お薦め記事の文言を抜き出し、キャッチコピーを考えて、色とりどりのペンで書き込んでいく。

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 過去一番のヒットは「読むチョコレート」。内容が面白いかどうか自ら試してみて、との思いを込めた。「この時は売れ行きが1日あたり5~6冊増えました」と笑う。遠くから見て文字が浮いて見えるよう陰影も施す。工夫のコツは本を読み、書店の雑誌コーナーを歩き回って探す。「(女性誌の)『JJ』は最近、こんな字体使うんや」。吉富さんの研究は尽きない。

 大阪市営地下鉄淀屋橋駅近くの橋で売る井上一博さん(53)の技は「スピード」だ。大阪市役所などに向かう人の横で、毎日朝7時半から夜7時半まで黙々と雑誌を掲げて立つ。ビジネス客が多く、お釣りを返す時間をいかに短縮できるかが客をつかむコツだという。1冊350円。千円札や一万円札に備えて片方のポケットに650円、もう片方には9千円を入れ「コンマ1秒を意識して出す」。

 1冊売って手取りは180円だが、3人とも雑誌販売だけで生計が成り立っているといい、常連客の層の厚さを感じる。3人の客の獲得方法は異なるが、共通するのはどうすれば客に響くか試行錯誤を続けていること。この情熱が何よりの「売れる秘訣」だろう。

(大阪経済部 西岡杏)

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