住民が守る「薬師さん」 忍阪の石仏(時の回廊)
国内最古級 奈良県桜井市

2014/10/31付
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 奈良県桜井市の山あいの里、忍阪(おっさか)に石位寺(いしいでら)という小寺がある。その蔵に飛鳥時代から奈良時代初期の作で、国内に現存する石仏では最古級とされる「石造浮彫伝薬師三尊像」が安置されている。笑みを浮かべる目は切れ長で和風の優しさを感じさせる一方、高い鼻や遠近法を駆使した台座には大陸的な印象も受ける。

飛鳥時代から奈良初期のものと伝わる「伝薬師三尊石仏」(奈良県桜井市)
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飛鳥時代から奈良初期のものと伝わる「伝薬師三尊石仏」(奈良県桜井市)

 石位寺は急な坂を上った高台にある。眼下には古い街並みと棚田が広がる。周囲には舒明(じょめい)陵など古墳も多い。

 蔵に鎮座する石仏は高さ118センチ、幅125センチ。おむすび形をした石材の片面に刻まれた彫像は保存状態が非常に良く、驚くほど鮮やかだ。多くの薬師像では左手に持つ薬壺(やっこ)が、石仏では傍らに置かれている点が目を引く。古代の様式を伝えているのだという。唇や法衣にはうっすらと朱色が施され、優美さを引き立てる。ただしこれは後世の彩色とされる。

 この石仏が初めて注目されたのは1916年。同寺を訪れた仏教美術の大家、関野貞・東京帝大教授が白鳳期の石仏と鑑定し、戦前に国宝となった。50年の文化財保護法の施行に伴い、改めて国重要文化財に指定されている。

■額田王ゆかり?

 由来については諸説ある。一つは忍阪の近くにあった粟原寺(おおばらでら)から忍阪へ移されたとの説だ。同寺はすでに廃絶したが、比売朝臣額田(ひめのあそんぬかた)という人物が建立したことが、同市の談山(たんざん)神社に伝わる「粟原寺三重塔伏鉢」(国宝)に刻まれた銘文から確認できる。比売朝臣額田に関する文献は他にないが、万葉歌人として名高い額田王(ぬかたのおおきみ)その人で、石仏は王の念持仏だったとの伝承が地元には残っている。

地元住民らの手で管理している石位寺(奈良県桜井市)
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地元住民らの手で管理している石位寺(奈良県桜井市)

 もう一つは大陸渡来説。百済から贈られた弥勒石像が飛鳥寺や元興寺(がんごうじ)などの寺院を転々とし、最終的に忍阪に伝わったとの見方だ。

 同市教育委員会文化財課によると「石材など詳しい調査をしておらず、学術的に確かなことは言えない」という。

■「古代の里」伝える

 寺は70年ごろ無住となり、石仏は30年近く秘仏として非公開だった。2010年、寺を管理する地元住民が一般公開することを決め、現在は桜井市を通じて事前に申し込めば拝観できる。

 忍阪区長の森本藤次さん(68)は「寺の維持管理費はほとんどが住民の手弁当。大変だが、仏様を広く知ってもらいたいと考えた」と話す。

 同区では歴史遺産を地域活性化に生かそうと、石仏公開に合わせて観光パンフレットを作成したりウオーキングイベントを企画したりするなど、多彩な取り組みが始まっている。活動を担う一人、森井敏幸さん(69)は「古代の里を埋もれたままにするのはもったいない」と意気込む。

 忍阪を紹介するサイトをインターネット上に開設した森本善彦さん(68)は「地域おこし活動には様々な職業や世代の人々が参加しているが、忍阪と石仏を知ってもらいたいとの思いは一つ」と話す。

 森本区長は「由来や制作者が分からないことは、むしろ神秘的でいい。『薬師さん』と敬ってきた地元の気持ちは変わりません」と強調する。

文 大阪社会部 塙和也

写真 大岡敦

<より道> 眼前に大和三山 歴史を一望

 石位寺のある奈良県桜井市忍阪の東には、外鎌山(とかまやま)がそびえる。富士山に似た端正な姿から「朝倉富士」の異名をもつ。古代から人々の信仰の対象となり、万葉集にも詠まれている。

外鎌山からは大和三山を一望できる(奈良県桜井市)
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外鎌山からは大和三山を一望できる(奈良県桜井市)

 標高は約292メートル。中腹には南北朝時代に一帯を勢力地とした武将、玉井西阿(せいあ)が築いたとされる外鎌城の石垣が残る。玉井は南朝の忠臣。後醍醐天皇の崩御後も、吉野に立てこもる後村上天皇に付き従ったという。

 登山ルートはいくつかあるが、地元の人によると山の西側にある近鉄大和朝倉駅を降りて駅前の団地を抜け、麓に立つ配水タンクの脇から頂上を目指すのが最も登りやすいそうだ。ただし登山道がきちんと整備されているわけではなく、登山靴などの準備が必要。

 JR・近鉄桜井駅から奈良交通バスに乗り「忍阪」下車、徒歩約5分。石仏拝観は事前に桜井市観光まちづくり課((電)代表0744・42・9111)に申し込む。
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 JR・近鉄桜井駅から奈良交通バスに乗り「忍阪」下車、徒歩約5分。石仏拝観は事前に桜井市観光まちづくり課((電)代表0744・42・9111)に申し込む。

 20分ほどでたどり着く山頂では、奈良盆地を一望する絶景が待っている。耳成山など大和三山だけでなく、遠く二上山や生駒山も見渡せる。天気の良い日には神戸の市街まで遠望できるという。

 山の南側には舒明陵のほか、額田王の姉といわれる鏡女王(かがみのおおきみ)の墓もある。古代から中世まで、歴史を体感できる山だ。

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